Q.この(1)顧客ニーズや(2)価値創出は、そのプロジェクトの重要性を説明する際も必須になるわけですね。

 何があってもマーケット、顧客が求めている「N(ニーズ)」は何か、が最初にこなければならない。そして、そのニーズに対するソリューションをもたらすA(ニーズに応える独自のアプローチ)を説明したうえで、価値に直結するB(アプローチの費用対効果)と、C(競合や代替品と比較した優位性)を明らかにする。この「NABC」がプレゼンテーションの基本である。

 しかし、様々な企業や研究所でみてきたプレゼンはA(ニーズに応える独自のアプローチ)ばかり強調した「nAbc」ばかりで、ビジネスマンにとって価値のないものがなんと多いことか!

「すごいアイデアがあるんです」「私のアイデア気に入っていただけませんか」「メリットもコストもすごいですよ、競争もありません」……これがよく起こりうるプレゼンである。技術系の人がそういうプレゼンをして「聞き手が理解能力がないんだ」と相手の悪口を言いがちだが、そうではない。必ずNABCの4つに答えるプレゼンをすれば、結果は違ってくる

Q.プレゼンもうまくいって、いよいよプロジェクトをスタートさせるとする。そのチーム作りで気をつけるべき点は?

「プロジェクト・マネジャー」と「チャンピオン」の二人が、チームには必ず必要だ。前者のプロジェクト・マネジャーは、プロジェクトの予算やスケジュールを管理して引っ張っていく。後者のチャンピオンというのは、情熱をもって、献身的に、価値提案と顧客ニーズの見極めをリードしていく存在だ。プロジェクトメンバーが「これ失敗するかな」と尋ねても、「何おかしなこと言ってるの」と返せるような自信をもつ人材が望ましい。特に、このチャンピオンなくして成功はないし例外はない。 

 ただし、よく覚えておいてほしいのは、チャンピオンと天才は混同してほしくない、ということだ。イノベーションを起こすために必要なのは、あくまで“ベストのチーム”である。個人の力がどれだけ素晴らしくても、素晴らしいイノベーション・チームとは比較できない。チーム作りそのものが、プロジェクトの一部である。メンバー同士がお互いを敬う、誠実さも大切だ。レーシング・チームと同じように、一人一人が重要な役割を果たし、優勝の喜びをお互い分かち合えるようでなければいけない。

Q.プロジェクトを引っ張る「チャンピオン」は、育成できるものでしょうか。

 まずはチャンピオン本人の情熱やモチベーションがあってこそで、これが重要なことだ。プロジェクトの成功には、やる気あふれるチャンピオンが不可欠だ。そのため、常に、誰もがチャンピオンになれることや、そのロールモデルを皆に示していくことが必要だろう。また、プロジェクト遂行につきもののリスクはとるのでなく、減らすよう努めるべきだが、そうしたプロジェクトの過程で、チャンピオンの上に立つ人間がアシストできることは惜しみなく提供することが大切である。

Q.それが可能な企業文化に変えていくべきですか。

 確かにそういった企業文化は重要だ。だが、「企業文化」と言われてしまうと、どの社員もみな変えたいとは思わないものだ

 海外では、日本以上にさまざまな文化の入り混じった職場が多いと思う。企業文化を変えたいなどと言った瞬間に、みな心のシャッターを閉ざしてしまうだろう。だから、「私たちのビジネスをもっと大きくしたいな」「一緒に成長していこう」とめざす方向性を示したほうが、共感を得やすいはずだ

 


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