Q.そのイノベーションを生み出すために必要となるのが、「5つの原則」ですね。

 ここ10年間で最も重要な要素が、「5つの原則」だと私たちは信じている。5つの原則とは、(1)真の顧客ニーズ、(2)価値の創出、(3)イノベーションをリードするイノベーション・チャンピオンの存在、(4)イノベーション・チームの構築、そして、(5)チーム・組織の方向づけ、だ。組織そのものが一丸となって、最も高い顧客ニーズを出していくことが必要である。

 この5つの原則は相乗効果があり、それぞれの実行度合いの掛け合わせで、イノベーションの成功確率が変わってくる。どれか一つでもゼロがあると、成功の可能性はゼロになるし、それぞれの達成度が50%から60%に10ポイント上がれば、成功の確率は3倍近く上昇する。このように、イノベーションを実現し成功させることは、単なる幸運ではない、と我々は考えている。運が良かった、もしくは天才がいるから実現できた、という類の話ではない。そのイノベーション・プロセスは、ベスト・プラクティスを併せ持った、従業員へのルールブックのようなものだ。魔法でも、マジックでもない。場数を踏んだうえで勝ち得た方法論であり、DNAに組み込まれている。学んでいける規律、原則であり、証明もできる。

 日本のイノベーションのDNAは何かと考えると、それはTQM(品質管理マネジメント)だと思う。世界でも強さを発揮できるはずだ。

Q.「5つの原則」のうち、特に(1)真の顧客ニーズや、(2)価値の創出の重要性を強調されています。

 世の中を見回すと、面白そうなプロジェクトやアイデアは何百も転がっている。しかし、実際に労力を費やすべきプロジェクトは、本当に少ない。

 まず、顧客は何を考えて気にしているのか。どこにどれだけ大きなチャンスがあるのか、どういうトレンドがビックチャンスを生むのか……。シリコンバレーのベンチャー・キャピタルがよく言う喩えを使えば、単なる“ビタミン剤”程度の効果でなく、劇的に効く“鎮痛剤”を探すのだ。ニーズ、市場の大きさ、そして緊急度も考慮しなければならない。指数関数的に世界が変わっていくときに、いかにすれば自分たちは先頭にたてるのかは、この顧客ニーズや価値創出の可能性を見極めることに掛かっている。

 たとえば、SRIで新たなベンチャーに投資するときは、5億ドル以上の価値を生むもの、と決めている。500万ドル規模のベンチャーであれば、シリコンバレーでは価値がないとみなされてしまう。その規模では、プロジェクトに着手するためのベストな人材も、必要資金も集められないし、最終的に商品を完成させる研究開発に着手できない。

 これは我々が決めているわけではなく、マーケット自身がそういう環境を形づくっている。実際にこういったスタンスでプロジェクトを始めていくと、10億ドルにのぼるようなチャンスが市場にはたくさんある。自分にとって面白いことでなく、重要なプロジェクトに着手することが大切だ。