6月1日に導入された「日本型司法取引制度」。海外ドラマなどで聞いたことがあっても、具体的にどういうものなのか、説明できる日本人は少ないだろう。日本型司法取引とは、そもそもどのような制度なのか、その運用目的やメリット、デメリットなどを青山学院大学大学院法務研究科の後藤昭教授に聞いた。(清談社 福田晃広)
アメリカ映画とは違う
「日本型司法取引制度」
一般的に言われる“司法取引制度”には、大きく分けて2種類ある。1つ目は、アメリカなどで行われている「自己負罪型」。これは自分の罪を認めることと引き換えに刑を軽くしてもらうという取引だ。
2つ目は、「捜査・訴求協力型」といわれるもので、主に共犯者の処罰に協力することによって、自分の処分を軽くしてもらう取引を指す。今回の日本型司法取引制度では、こちらのタイプのみ導入された。
具体的に対象となるのは、贈収賄、脱税、詐欺、金融証券取引法違反、粉飾決算、独占禁止法違反など、企業における財政経済犯罪だ。そのほかには、暴力団によることが多い薬物、銃器などの組織犯罪も対象となった。
これまでは被疑者に対する取り調べによって事実を解明するのが、日本の刑事裁判の特徴だった。ところが近年、警察による手荒い取り調べが冤罪を引き起こしているのではないかとの指摘もあり、2016年の法改正で、限定的とはいえ、取り調べの際に録音・録画を行うという「取り調べの可視化」が制度化された。透明性を高めるための方策には違いないが、これまで以上に黙秘権が尊重され、供述が得られにくくなったのも事実だ。
事件によっては共犯者の供述がなければ立証しづらい場合も多いから、厳しい取り調べをしにくくなることで、捜査関係者が苦戦を強いられることになる。その対応策として、検察官から特に要望の強かったのがこの日本型司法取引制度だという。
「日本型司法取引制度の目的は、端的にいえば共犯者の供述をしやすくすることで、事実の解明に結びつけること。もっといえば、その背後にいる首謀者を芋づる式に処罰するのが狙いといってもいいでしょう」(後藤氏、以下同)