次の文章は、私が『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか?』(あさ出版)という書籍を書いたときに、成城石井の内部の方の話を聞いてまとめた文章を元にしています。

2つ、同じ内容の文章を並べます。

------【改善前】-------

なぜ、成城石井のワインは、安いのに、おいしいのか。

ヨーロッパから船積みされたワインは、長い時間をかけて日本に運ばれますが、冬でもものすごく暑い赤道直下のエリアを通過することになります。普通のコンテナで運んでいたら、内部はとんでもない熱さになる。昔は、そんな状態でワインが運ばれていたのです。これがワインに影響を与えないはずがない。

その問題を解決するべく成城石井が取り組んだのが、「Reefer(リーファー)」と呼ばれる定温コンテナ輸送で直輸入することでした。この方法を、ずっと昔から取り入れていたのです。

そして、日本に着いてからも、温度と湿度をしっかりと管理する倉庫を建造し、ワインを保管している。しかも、全体がひんやりと冷たくなる仕組みも取り入れている。

成城石井は、ここまでやっているのです。
だから、成城石井のワインは「安くてもおいしい」のです。

----------以上-------------

上の文章を読んで、
「このワインはどれくらい安いのか?」
「船積みの時間はどれくらい長いのか?」
「冬の赤道直下ってどれほど暑いのか?」
気になりませんでしたか?
モヤモヤしませんでしたか?
そして、こういう文章、よく見かけませんか?

上記の文章で言えば、「安い」「長い時間」「ものすごく暑い」「ずっと昔」「しっかりと」「全体がひんやりと」「安くても」が、形容詞や形容表現です。

ここでは「副詞」も混ざっていますが、副詞は動詞などを修飾する役割ですから、ここでは、文章をわかりにくくする形容表現の一部と考えます。

さて、これらの形容表現を「素材」に置き換えると、次のようになります。
繰り返しますが、素材とは、「独自の事実」「エピソード」「数字」です。

------【改善後】-------

なぜ、成城石井のワインは1500円の安さでも、おいしいのか。

ヨーロッパから船積みされたワインは、2ヵ月かけて日本に運ばれますが、冬でも30度近い気温になる赤道直下のエリアを通過することになります。普通のコンテナで運んでいたら、内部はとんでもない熱さになる。昔は、そんな状態でワインが運ばれていたのです。これがワインに影響を与えないはずがない。

その問題を解決するべく成城石井が取り組んだのが、「Reefer(リーファー)」と呼ばれる定温コンテナ輸送で直輸入することでした。30年も前のことです。

そして、日本に着いてからも、完全定温、定湿管理の倉庫を建造し、ワインを保管している。24時間、温度や湿度を管理し、冷気が全体にまんべんなく自然滞留される仕組みも取り入れている。成城石井は、ここまでやっているのです。

だから、1500円のワインでもおいしいのです。

--------以上---------

疑問点が解消され、端的に、ストレスなく読める文章に変わったのではないでしょうか。
あなたが書いた文章を見返して、もし形容詞の量が多かったら、形容詞を素材に変えてみてください。
それだけで、文章の「わかりにくさ」は、随分と解消されるはずです。

最後に、形容詞を使わないことの「もう1つのメリット」を紹介しておきましょう。

「形容詞を使わない」と決めるだけで、速く書ける

『超スピード文章術』では、文章を書く上で生じる「ムダ」を徹底的に排除して、「とにかく速く書き終える方法」を詳しく紹介していますが、形容詞を使って文章を書こうとすると、二重の意味で書くのを遅らせます。

伝わらないだけでなく、「思い浮かばない」ときがあるからです。

文章に苦手意識が生まれたり、書くときに時間がかかる大きな理由の1つは、形容詞を使って表現しようとするからです。言葉を生み出そう、思い出そうとするからです。

何か気の利いた言葉を見つけることができないか。うまく表現する形容詞を生み出そう、思い出そう。そんなことを考える。しかし、なかなか出てくるものではない。結果として、悩む。書けない、という印象を作る。書くスピードも当然、落ちる。

ところが、「形容詞を使わない」と決めた瞬間、必然的に素材に意識が向くようになります。形容詞の「中身」を書かなくてはいけなくなるからです。

「素材を書く」と決めてしまえば、「悩まずに速く書ける」ことにつながるのです。

たとえば、「すごく寒い」という状況を書きたいがために、「まるで北極のように」にしようかとか、「大きな冷蔵庫の中に入ったかのように」の方が伝わりやすいだろうか……などと悩んでいると、単純に、時間がかかります。

そこで悩むよりも、素材を並べてしまえばいいのです。

「温度計は零下10度を指していた」
「手袋をしても、手がかじかむくらいだ」
「窓の外を見ると、軒下から伸びるツララが20センチほどの長さに延びていた」

どうでしょう。これらはすべて、素材を並べて、事実を描写しただけです。でも、「すごく寒い」と比べて、具体的な寒さがイメージできるのではないでしょうか。

「じゃあ、具体的にはどんな素材を集めるべきなのか」、「集めた素材をどう構成すれば、わかりやすい文章を速く書けるのか」などの点については、『超スピード文章術』で、私自身が25年間積み上げた独自のノウハウを余すところなく紹介しています。

ぜひご覧になっていただき、日々のお仕事や書きもので、使い倒してください。