1993年以来25年ぶりに上陸した最大風速44メートル以上の「非常に強い台風」は、関西を中心に大きな爪痕を残した。この台風21号による死者は10人を超え、負傷者は約470人。1994年の開港以来から最大風速を観測した関西国際空港では、連絡橋が断裂して通行不能になり、利用客や関係職員ら計8000人が取り残された。さらに高潮で滑走路が水没するなど、人工島に開設された空港の脆弱性を露呈した。強烈な雨風と被害をもたらした台風21号は文字通り、インバウンド(訪日外国人)景気に“水を差しかねない”状況になっている。(事件ジャーナリスト 戸田一法)
うなる強風、横転する乗用車
見たことがない光景だった。これが四半世紀に一度の超大型台風なのかと、本当に恐怖を感じた。
大阪市内は4日午前、まだ青空が広がっていた。少し風が強くなってきた正午頃から灰色の雲が垂れ込め、細かな水滴が宙を舞い始める。午後1時過ぎ、10階のビジネスホテルのベランダから手が届きそうな高さに、真っ黒な雲が凄まじい勢いで流れていく。
ほどなくして樹木の葉や枝、発泡スチロール、紙切れ、トタンとみられる金属片などが続々と舞い上がり、ものすごい勢いで飛んでいく。子どもの頃に見た映画「オズの魔法使い」でドロシーが竜巻に飲まれるシーンが思い出されたぐらいだ。
部屋は軽い揺れを感じ、乗り物酔いのような感じに。窓には「ビシビシ」という激しい雨音と、人の悲鳴のような「ビュオー」という風音が響く。ベランダにも次々に飛来物が入ってきて窓をたたく。好奇心から窓を2~3センチ開けてみると、部屋の気圧が一気に変わり、呼吸できなくなった。必死に窓を閉めたが、数秒の間に隙間から入り込んだ雨で、部屋はその場所だけがしっとりと濡れていた。