『週刊ダイヤモンド』2018年9月15日号の第1特集は「ストーリーとデータでわかる ファイナンス思考」です。日本にアマゾンのような企業が生まれないのはPL脳に原因があります。今こそ、日本を蝕む病「PL脳」を、ファイナンス思考を身につけてぶっ壊しましょう!「ストーリーでわかるPL脳」をはじめ、実例やデータも豊富で、とても読みやすく易しい特集となっています(こちら:https://diamond.jp/feature/dolsp/financeに特集の特設サイトを設置しています)。

PL=損益計算書の数字が目的化
日本企業にはびこる「PL脳」

 あなたの職場にもいないだろうか。「安売りしてでも売り上げを増やせ! でも利益は減らすな!」と言う上司。あるいは、ひたすら「トイレの電気は消せ!」と言って、固定費削減に血眼になり、前年と同じ利益だけは死守しようとする経営者。

 日本企業を長く蝕んでいる病がある。「PL脳」だ。上記はその典型的な病状である。

 社長としてミクシィを再生し、書籍『ファイナンス思考』を執筆した朝倉祐介氏はPL脳をこう定義する。「目先の売り上げや利益を最大化することを目的視する、短絡的な思考態度のこと」。

 PLとは財務3表の一つで、損益計算書(Profit and Loss Statement)のことだ。売上高が一番上に記載され、そこから費用を引いたり売上高以外の収益を足したりして、営業利益、経常利益、当期純利益などが記載されている。

 1年間の経営の結果が分かるからPLにも役割はある。しかし、日本の企業はあまりにもPLだけを重視し過ぎてきた。

 それには理由がある。高度経済成長が続いた時代は、売上高さえ増加させれば、利益は後から付いてくるという発想の経営者がほとんどだった。メーンバンクがお金の面倒を見てくれたこともあり、経営者は深く考えなくてもよかったのだ。

 PL脳に蝕まれているのは経営陣だけではない。製造、営業といった現場からメディアや投資家まで、多くが売上高や利益が前年を上回ったかどうかばかり気にしている。

 そんな発想だから、PL脳の持ち主は、ビジネスを進める上でBS(貸借対照表:Balance Sheet)の視点を持っていないことが多い。簡単に言えば、その事業のために株主が出したお金をはじめどれだけ資金を突っ込んだのかを気にしないということだ。

リスクを取って投資をする
積極的な姿勢を欠いてしまう

 資金調達にはコストがかかる。金利5%でお金を借りてきて、利益率1%の商売をする。このように単純化して表現すれば「ばからしい」と思えるかもしれないが、実はあなたも知らぬ間にそうしたばからしい行為にまい進している可能性がある。企業の現場はおろか、経営者ですらBSを意識することが少ないからだ。

 首都大学東京大学院でファイナンスを教える松田千恵子教授は、「日本企業の経営陣は“売り上げを伸ばしたら褒められる”という期間が人生の間であまりにも長かった。だから“売り上げ以上にお金を投資したらまずい”ということですら、意外にも分かっていない」と明かす。

 さらに、特集内でも再三にわたって紹介するが、企業経営の究極の目的は現金を増やすことだが、実はPLからは正確な現金の動きを読み取れない。

 本当の現金の動きが分かるキャッシュフロー計算書の公表が2000年代に義務付けられたのも、PLのデメリットを克服するためだ。にもかかわらず、それを理解していないPL脳の経営者がいまだに多く、弥縫策に動きがちだ。

 企業の資金調達手段が多様化し、メーンバンク制が崩壊して久しいし、キャッシュフロー経営が叫ばれてから20年近くたった。それでも、日本企業の経営者、現場の認識はほとんど変わっていないのだ。

 そして、PL脳の最も危ない側面は、大きな構想を描き、リスクを取って投資をするという、積極的な姿勢を欠いてしまうこと。

 分かりやすいのが研究開発費や広告宣伝費の削減だ。それらを行えばPLの利益は瞬時に向上する。

 しかし、本来、新しい商品やサービスの開発は、次世代の飯の種となるはず。四半期や1年後では結果が出ない投資だってあるはずだ。それでも、PL脳の企業では未来への投資がいとも簡単に削減されてしまう。

 米アマゾンや米アップルといった成長を続ける企業は、PLの良しあしにこだわらず、積極的に開発費を投じている。PL脳に毒された日本企業とは正反対なのだ。

 しかし、光明はある。PL脳という罪深い病状への処方箋、ファイナンス思考だ。

PL脳への処方箋
「ファイナンス思考」とは?

 企業とお金の関係を示す単語として、「経理」「会計」「財務」「ファイナンス」という言葉がある。複数あってややこしいのだが、PLは「経理」「会計」というジャンルに属していて、「ファイナンス」の世界とは分かれている。

 前出の松田教授は「お金を使った後に“記録”するのが経理や会計。その情報を基に、ある事業を進めるにはどれくらいお金が掛かるのか、どう進めるべきかが分かるのがファイナンス」と解説する。

 つまり、会計は過去、ファイナンスは未来のためにあるのだ。

 一方、朝倉氏は、ファイナンスを以下のように定義付けている。

 会社の企業価値を最大化するために、

・事業に必要なお金を外部から最適なバランスと条件で調達し(外部からの資金調達)、
・既存の事業・資産から最大限にお金を創出し(資金の創出)、
・築いた資産(お金を含む)を事業構築のための新規投資や株主・債権者への還元に最適に分配し(資産の最適配分)、
・その経緯の合理性と意思をステークホルダーに説明する(ステークホルダー・コミュニケーション)

 という一連の活動だ。

 その上で、単に会社が目先でより多くのお金を得ようとするための考え方ではなく、将来に稼ぐと期待できるお金の総額を最大化しようとする発想とも述べる。

 そうしたファイナンス思考の要諦を本特集では紹介していく。日本企業が成長するためにもPL脳のぶっ壊し方を、ぜひ知ってほしい。

ストーリーとデータで
ファイナンス思考を易しく理解

『週刊ダイヤモンド』2018年9月15日号の第1特集は「ストーリーとデータでわかる ファイナンス思考」です。

 ファイナンスと聞くと難しいと思われかもしれませんが、そんなことはありません。とても易しく理解できるように設計された特集なのです。

 まず、冒頭の「老舗菓子メーカーを救ったママ課長物語 PL脳バスター氷室梨香子」により、ストーリーでPL脳の典型を紹介。職場を壊し、人を暗くするPL脳に迫ります。

 次に、実際の企業のたくさんの事例をもとにPL脳で沈むケース、ファイナンス思考で浮かんだケースを紹介。また、脱PL脳ランキングなど160社のデータも掲載しています。

 さらに、アマゾンを初めとしたGAFAのような成長企業がなぜ日本に生まれないのかを、ファイナンス思考をもとに紐解いていきます。また、書籍『ファイナンス思考』の著者、朝倉祐介さんによる対談も随所に盛り込んでいます。

 本特集は書籍『ファイナンス思考』を読んだ方も読んでいない方も、かなり楽しめます。ぜひ、ご一読いただければと思います。

 ちなみに、特集の特設サイトでは、朝倉祐介さん執筆の『会計とファイナンスの基礎とポイント』(約60ページ)のPDFを無料で配布いたします(無料の会員登録は必要)。特集と一緒に読めば理解が進みますので、そちらもぜひダウンロードしてみてください。

 また、週刊ダイヤモンドのツイッターアカウント(@diamondweekly)では、「あなたの周りにあるPL脳」を募集します。ハッシュタグ「#PL脳」と付けてツイッターで投稿してくだされば何名かの投稿を、リツイートなどで紹介させていただきます。ぜひ、ご参加ください。

(『週刊ダイヤモンド』副編集長 清水量介)