『ファイナンス思考』(朝倉祐介著)という硬い表題のビジネス書が売れているそうだ。早速読んでみたが、なるほど「この本を若いころに読めば、自分の人生の寄り道をもっと減らせたかもしれない」と思った。
「ファイナンス思考」とは「『態度』や『思想』の問題」で、「みずから新たな事業を生み出していこうと真剣に考えているのかどうかという、志の問題」だという。
それは将来、企業が稼ぐことを期待できるお金の流れ(キャッシュフロー)を最大化するために、外部から資金を確保し、それを長期的に分配し、企業価値を最大化するための努力に結び付く。目先の収益にとらわれず、将来にわたって期待できるキャッシュフローを最大化しようとする発想であり、未来志向だ。つまり、経理や財務の手法の話ではないのだ。
これは、短期的な利益の毀損を厭わず、市場の拡大や競争優位性の確保を重視し、長期的に大規模な投資を続けるということでもある。昨今興隆している、米グーグル、米フェイスブック、米アマゾンが良い例だ。
アマゾンは、新事業としてAWSというデータセンターを立ち上げるに当たっては、市場優位性を勝ち取るまで投資の手綱を緩めなかった。グーグル、フェイスブックに至っては、もうかる仕組みが分からない状態でも投資を続けた。
その一方で、短期的な売り上げや利益を最大化する思考態度を、著者は「PL脳」と名付け、これが日本企業の飛躍を損ねている根本原因だ、と喝破している(PLはProfit & Loss〈損益計算書〉を指す)。「PL脳」が主体となると、PLをよく見せたいという動機を持つようになり、あらゆる手段を講じて最終赤字を回避しようとする。その度合いが過ぎると、事業売却や構造改革のように、長期的には会社の成長に貢献する一方で、短期的なコスト計上を必要とする大胆な施策には着手できなくなる。
また、利益ではなく未来を見据えて顧客基盤や技術を狙った買収がしにくくなる、と指摘する。これが日本のM&Aの件数が少なく、合従連衡が起きづらい原因であり、例えば、日本のソフトウエア産業が世界に出遅れたことの一因だったと分析している。