そんなPMIの悩みどころの一つが、アイコスの交換のタイミングだ。電子機器である以上、バッテリーの持ちに限界がある。販売攻勢をかけてから2年たち、デバイスを交換するタイミングが頻出する局面に突入する。競合にとっては、「自社への切り替えを促すタイミング」(JT幹部)だ。

 PMIは、あくまで安売りはせず、付加価値で勝ち抜くという。

 例えば、充電時間が長いことが弱点のアイコスだが、一本を吸いながらもう一本を充電することができるよう、加熱するホルダーを単体で2月から売り出した。今まではホルダーと充電用のポケットチャージャーとのセットでしか生産ができなかったが、設備の増強によって可能になった。

 また限定デバイスやアクセサリーの販売といった、デバイスの所有欲をかき立てる施策を打つ。PMIは、アイコスを自己表現のツールとしてアピールする。競合の新製品で選択肢が拡大する難局に、あの手この手で対処する。

 野村證券の藤原悟史アナリストは、「紙巻きたばこに比べて加熱式たばこは顧客のロイヤルティーが低く、シェアは流動的になる」と指摘する。また、デュアルユーザー(2台持ち)も多く、シーンによって使い分けがされているという実態もあり、ブランド力を通じたユーザーの奪い合いが激化する。

間に挟まれるBAT
ブランド拡大で存在感を出したい

 2社に挟まれながら、何とか存在感を発揮したいのがBATだ。グローの吸い応えとたばこ特有のにおいは、アイコスとプルームテックの中間ぐらいと評価されるが、中庸の位置付けでどう個性を発揮するのか。

 グローのマーケティングなどを担当するピーター・シモンス副社長は、「われわれはマーケットリーダーでありたい」と意気込む。

 シモンス副社長は、プラットホームであるデバイスと、たばこ銘柄であるブランドの組み合わせが重要だと説明する。

 グローで吸える銘柄は、現在「ケント」ブランドの8種類だが、これは3社で最も多い。「消費者のニーズを満たそうとすれば、種類は増えるし、今後ケント以外のブランドを投入する可能性は当然ある」(シモンス副社長)。

 特に、デバイスはバッテリーの小型化や長時間化などが商品性を左右するが、各社での開発競争は激しい。「数年後に今のグローと全く違うものが登場することだってあり得るだろう」(同)。

 確かに、デバイスについては、各社とも現状が最終形態だとは思っていない。

 デバイスの性能が重要な加熱式たばこは、通信産業と電機産業によるスマホ市場の戦いに近いものがある。技術力しかり、法規制や顧客ニーズなどによって市場が急速に変化し得る点しかりだ。その変化は既存のたばこメーカーの在り方では対応できないスピード感があり、組織の柔軟さが求められよう。

 加熱式たばこは、メーカーの在り方そのものを変える。変化に対応できたものが、市場を制する。