酒を酌み交わして「仲間」になる

人を巻き込んで仕事を動かす。「チーム段取り」の注意点水野学(みずの・まなぶ)
good design company代表。クリエイティブディレクター、クリエイティブコンサルタント
ゼロからのブランドづくりをはじめ、ロゴ制作、商品企画、パッケージデザイン、インテリアデザイン、コンサルティングまでをトータルに手がける。
おもな仕事に、相鉄グループ「デザインブランドアッププロジェクト」、熊本県「くまモン」、中川政七商店、久原本家「茅乃舎」、イオンリテール「HOME COORDY」、東京ミッドタウン、オイシックス・ラ・大地「Oisix」、興和「TENERITA」「FLANDERS LINEN」、黒木本店、NTTドコモ「iD」、農林水産省CI、宇多田ヒカル「SINGLE COLLECTION VOL.2」、首都高速道路「東京スマートドライバー」など。著書に『「売る」から、「売れる」へ。水野学のブランディングデザイン講義』(誠文堂新光社)、『センスは知識からはじまる』『アウトプットのスイッチ』『アイデアの接着剤』(すべて朝日新聞出版)などがある。

 プロジェクトには社内外のさまざまな職種の人が参画します。
 当然それぞれの立場があって、価値観もみんな違います。よって、チームで動いていくときにはすれ違いやトラブルはつきものです。

 ぼくらはこれまでいろいろなプロジェクトを経験してきましたが、そういったすれ違いやトラブルはほぼ起きません。それは早い段階で「生身のコミュニケーション」をとっているからです。

 クリエイティブディレクターというのは、下請け業でもあり、「先生」と呼ばれることもある、ちょっと変わった立場です。

 クライアントの担当者は、ぼくのような立ち位置の人間に慣れていますが、実際の工事をしてくれる現場の人たちは、やりにくそうにしていることも多々あります。

 2004年、山形県の「湯野浜温泉 亀や」の内装を手がけたときもそうでした。地元の工務店の大工さんたちから見たら、14年前のぼくは東京から来た若造です。
「クリエイティブディレクター? なんだこいつ。大丈夫か」

 内心ではそう思いながら、「先生」ととりあえず呼んでいるようなぎこちない関係。ぼくの提案に対しても、「何言ってんだ、そんなものできない」「東京の先生の言うことは、難しくてわかんねえや」などと、にべもなく断られることがしばしばでした。

 とうとう工事が止まってしまったとき、ぼくは酒屋で調達した一升瓶を2本抱えて、大工さんたちが休憩する仮設のプレハブに行きました。

「お疲れさまです! 飲みませんか」

 腹を割って話して、生身のコミュニケーションをとり、仲間になる。そこからはじめなければだめだと考えての苦肉の策でしたが、とことん飲んだ翌日から、仕事はうまくいきはじめたのです。

 決して「お酒」が必要だという話ではありません。自分をさらけだした、人間臭い、生身のコミュニケーションがなければ生まれない信頼関係もある、ということです。

 気心の知れない人間に対して、「目的に向かって、一緒に仕事をやりとげよう」と真剣に思ってくれる人はいません。

 まずは「人と人」としてしっかりコミュニケーションをとることで、結果的にお互いのモチベーションが高まり、目的を確認し、同じ方向を向くことができる。このプロセスなくして、チームの段取りは成立しません。

 だからこそ、仕事の立ち上げ時に飲み会や食事会をする際に、ぼくは仕事の話をしないことにしています。相鉄のプロジェクトでも、車両のプロ、塗装のプロ、線路のプロ、いろいろな人たちと飲みに行きましたし、朝までカラオケもしましたが、単に盛り上がって楽しんだだけでした。

 段取りとは、仕事の効率化を求めるもので、ルーティン化や何よりも時間を優先するといったテクニカルな作業です。しかし、テクニックだけで人間関係を抜きにしたらうまく機能しません。チームでやっていくのであれば、これだけは忘れてはならないと思っています。