猫仲間たちは、誘い合って広範囲にわたり聞き込みを中心に捜索をした。
その甲斐あって、4匹の仔猫が工場の敷地内で若い工員さんに助けられていることを突き止める。
猫好きの工員さんは、注射器の先にゴムのチューブをつけた自作の哺乳瓶を器用に操って、市販の猫用哺乳瓶さえまだ使うことのできない赤ちゃん猫たちに上手にミルクを飲ませていた。
ミルクを飲ませた後は、ティッシュでおしりをトントンと叩いて排便を促す。
しかし、工員さんの住んでいる工場の寮は、動物厳禁。
段ボール箱に入れられた仔猫たちは、車に積まれて寮と工場を行き来し、工員さんは作業の合間にミルクとトイレの世話をする日が続いていた。
まだ目がグレーで、耳も丸くつぶれたような感じの仔猫たちは、箱を開けると一斉に目覚めて、チューチューとネズミのような声をあげる。
なにはともあれ、九死に一生を得た4匹の仔猫たちは、その後わが家で元気に育ち、半年ほどが経ったある日、仔猫捜索の中心になった女性がわが家へ立ち寄った。
猫を見ると、たちまち好相を崩して、
「あらまあ!可愛らしいネコちゃんになりましたね!!」。
苦労して探し出し、奇跡が重なって生き延びた猫たち。
彼女が最後に見たのが手のひらに乗る大きさだったのだから、まだ小ぶりだとはいえ、どこから見ても立派な猫になったのがうれしくないはずがない。
こちらとしても、猫がうちにやってくるまでの皆の思いを引き継いで大事に育てているつもりだから、彼女にそう言ってもらえるのはなによりだった。
感動の再会を一同が注視する。
そして……。
猫は、人間の顔の高さに持ち上げられた瞬間、事もあろうに、彼女の鼻をガブリ!
周囲の笑顔が一瞬にして凍りついた。
目にもとまらぬ早業は、猫が立派に成長した証。
けれど、せっかく助けてくれた命の恩人になんてことを……。
東京都生まれ。東京学芸大学教育学部初等教育国語科卒。在学中に文部省給費にてパリINALCO(国立東洋言語文化研究所)留学。リサンス(大学卒業資格)取得。日仏両国で日本語を教える傍ら翻訳、通訳に携わる。地域猫ボランティア活動に関わり、これまで多数の猫を預かり里親へ橋渡ししてきた。現在、2匹の愛猫とともに暮らしている。