鈴見咲さんは、そのまま大学を中退し、約16年にわたって引きこもり状態が続いた。「大学やめさせてくれ」は、初めて自分の人生への意思を表示できた瞬間だった。

「大学では研究室配属まで行ったけど、さんざん自分を殺してきたのに、“なんで、そんなに自主性がないの?”と研修室で言われ、右にも左にも行けなくなった。何がやりたいのか考えることすら許されない状況に、長いこといたんです」
 
 引きこもっていたときは、親や先生を恨んだ。サポートしてくれるところは、どこにもなかった。

「支援機関に行こうと思えなかったのは、当時、障害者扱い、異常者扱いしていたからです」

引きこもりである故に
営業がままならないもどかしさ

 そんな中、パソコンのキーボード文字の並び方を変えれば、もっと早く入力できることに気づき、個人別で考えるべきだと主張。個人別で文字配列できるソフトウエアを開発し、販売した 。ところが鈴見咲さんは、「引きこもりであるが故に」営業展開できなかった。

「当時は、ネットの中でも、引きこもりですとは言えなかったですね。ローマ字入力に不満を持っている人の集まりにも行けないし、アイデア出しや広めてくれるところまで行けなかった」

 鈴見咲さん自身は、このソフトウエアをWindows10で動かし、今も使っている。ただ、Windowsをタブレットととして使っているときには動かす方法がないという。

 現在は2日に1回、夜中にスーパーで清掃のアルバイトを続けている。1回4時間制なので、正社員の4分の1くらいの勤務時間で済み、自分に適した働き方が守られる。鈴見咲さんは、そもそも「勤労の義務が定義できない」として、疑問を投げかける。

「いくら稼げばいいのか? 稼げなくても働いていればクリアされるのか? 定義できなければ、使う側が恣意的に解釈できてしまう。だとしたら、勤労の義務は法律としてあってはいけないものなのではないか?」