針金を突き刺したような
鋭い痛みがVRでほぼ消失!

アプリ画像の様子
アプリ画像の様子

 猪俣さんが開発したVRを用いたリハビリテーション機器は、健康な肩・肘・手首・5本の指の動きをモーションキャプチャで検知し、リアルタイムに左右反転させた形で、幻肢側に再現し視覚情報をつくる。さらに、患者にとってイメージでしかなかった幻肢を動かしてみることができる。

「幻肢を動かすことで健康な側も動くため、両手を動かしているように見えます。この『あたかも幻肢を自分の意思で動かしていると感じること』によって、両手の動きを視覚化することが脳への情報伝達となり、神経の再構築へとつながり痛みを緩和させます」と猪俣さんは説明する。

 だが、幻肢のイメージは個々異なる。例えば、肘から上部の「断端部から手が出ている」と言う人、「手が胃と重なった位置にある」と言う人などがいる。そこで、VRを用いたリハビリテーションでは、個々の幻肢のイメージ像に合わせてその長さや位置をカスタマイズ(ユーザーに合わせて調節)できるように工夫した。開発ではこの部分が一番、苦労したという。

「鏡療法では、幻肢の位置が自分のイメージと異なるため、鏡に映った動く手をただ見ているだけでした。一方、VRの場合、幻肢のイメージと同じ位置に映像をつくれ、その動きが見えるので、脳への影響力が大きくなります。特に、両手で水をすくって顔を洗うなどの“思い出体験”や簡単なゲームを集中しながら繰り返すことは脳への影響による痛みの緩和効果につながりやすいとわかりました」と猪俣さんは説明する。

 2016年から幻肢痛のある36人の治療経過を追う研究をしている。その一人の例を紹介しよう。神奈川県在住のTさん(40歳)は、23年前、事故で右腕の神経を損傷した(腕神経叢引き抜き損傷)。事故後1年たった頃から、右手の親指の付け根にしびれを感じるようになった。いつも正座の後、足がビリビリしびれるような不快感がある。さらに、しびれがきついときは、15分に1回程度、針金を突き刺されるような痛みが起こる。そんなときは、「仕事中でもデスクで鏡療法をしています」とTさんは言う。