意識高い系職員の「ど根性残業」を激減させた、あずさ監査法人流働き方改革自立心とプロ意識が高い人たちが集まるからこそ、長時間労働に歯止めがかからないという状況を、監査法人は働き方改革でどのように変えようとしているのか

自立心とプロ意識が高い社員が集まるからこそ、長時間労働に歯止めがかからない……。そんなジレンマに陥る企業が少なくない中、「新規の受嘱(一定期間、特定の仕事を受託すること)を抑制する」という大胆な決断によって、働き方改革への強い覚悟を示したのが、日本を代表する大手監査法人の1つ、あずさ監査法人だ。同法人のコンサルティングにかかわった株式会社ワーク・ライフバランスの小室淑恵社長が、大塚敏弘専務理事を対談相手に取り組みにかけた熱い想いを引き出す。(まとめ/アスラン編集スタジオ 渡辺稔大、撮影/鈴木靖紀)

新規案件をとり続ける限り
抜本的な対策をとることはできない

小室 まず御社の取り組みですごいと思ったのが、「新規の受嘱を抑制してもいい」という英断をされたことです。「え!? 普通の経営者は、なかなかそんなことを言えないな」と思いました。

大塚 我々には資本市場における責任があります。監査の品質を保つためには一定のリソースが必要です。現状のリソースを考えたときに、これ以上新規を受けると品質が担保できない可能性がある、ということで新規案件の受嘱を一時ストップしました。

 とはいえ、完全に止めるわけでないので、「延期」という言い方をしています。「ちょっと待ってください」と。

小室 「時期の調整」という意味ですね。

大塚 おかげさまで、めどが立ち、この7月から新規受嘱を再開しました。ただし、品質をきちんと担保できる、身の丈に合った部分での再開です。

小室 「目の前に受注できる仕事があるのに、断るなんて選択肢はない」。経営者がそう判断することで、やみくもに受注し、品質を落とし、お客様が離れる。もしくは何かしらの不祥事が起きたり、事故が起きたりという負の連鎖に転がり落ちるケースがあります。あのタイミングで御社が受嘱をストップしたのは、その後の飛躍につながるための助走だったと思います。

大塚 ジャンプする前にいったんしゃがむじゃないですか(笑)。あのイメージですね。