外国人観光客に人気の新宿のゴールデン街
安普請が立ち並んでいる理由
最近、東京新宿のゴールデン街が外国人観光客に人気だ。狭小な建物が林立する飲み屋街は世界でも珍しいという。あのような安普請が立ち並んでいるのは、ゴールデン街がかつて非合法の売春地帯「青線」であったからだ。
色街の存在は街の活気の副産物であり、都市には濃淡はあっても、その痕跡が見え隠れする。スナックや小料理屋のような外観で売買春を行う「青線」の存在は都市の裾野の広さを物語る象徴的な存在といえよう。
本書『青線 売春の記憶を刻む旅』の著者は20年間にわたり、北海道から沖縄まで、全国の青線があったとされる場所を30カ所以上歩いた。現地を訪れ、色街のわずかな残り香をヒントに往事の姿を浮かび上がらせる作業は、ノンフィクション作家としての技が光る。
青線の現状はさまざまだ。すでに旧観を失った街もあれば、細々と営業を続けている街もある。共通して、関係者の証言から浮かび上がるのは、諦念だ。行き場を失った女性たちは、青線に未来がないことを悟りながらも、消えつつある場所に居続ける。営業していない色街も主役が去り、再開発されるわけでもなく、いたずらに時を重ねている場合がほとんどだ。