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孫泰蔵

 僕には兄のように第一線に立ち続け、組織を引っ張り、会社を大きくしていこうという気持ちがありません。会社が成長しても、社長を退き、早々に次の世代に譲ってきました。

 なぜ、そういうスタンスだったのかといえば、僕にはいろいろと新しいことに取り組みたいという気持ちがあったためです。好奇心が強いともいえます。

 もちろん、自分の会社で全てに取り組めたのかもしれませんが、本来一つの会社でやりたいことの全てを行うというのは、創業者のエゴではないかと考えています。

 この考え方は、シリコンバレーの影響を受けています。シリコンバレーには、さまざまな事業に手を出すのではなく、一つのサービスを研ぎ澄ますことに集中するべきだ、という考えがあるのです。

 例えば、米フェイスブックは、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を徹底的に磨いてきました。あれだけ大きくなっても、フェイスブック銀行やフェイスブックモールというものはいまだに見ません。

 それに対して、日本の大企業は、さまざまなものに手を出しており、一つの会社で全てを取り込もうとするところが少なくありません。

 僕はそれに憤りを覚えることがあります。ピカピカのスタートアップが幾つか出てきても、大企業が彼らをうまく取り込んで、食い荒らしてしまう。スタートアップには大企業から来たサラリーマン経営者が居座るので、自由に仕事のできる環境が奪われ、本来持っているポテンシャルが失われてしまうのです。日本だけに限りませんが、頻繁に起きているように感じています。