われわれは食システムを破綻の淵に追い込んでしまった

 しかし、一見豊かに彩られたスーパーマーケットの棚の裏でどのような事態が進行しているかを知り、それぞれを自分の問題として考え始めれば、何か見え方が変わってくるかもしれない。

 これまで食経済は食品のコストを外部化させ、消費者にとっては一見得になるような行動を取らせることで、実際には回りまわって自分の首を絞めかねない選択を自ら進んで行うように、われわれを仕向けてきた。誰かに悪気があったというわけではなく、食経済の構造がそうなっていたのだ。

 しかし、そろそろその真のコストに気がついてもいい頃ではないだろうか。

 本来、食は生命の基本的な営みであって、商品ではない。それを「食経済」という形で他の商品と同じような経済原理の上に乗せることで、われわれは世界の食システムを、あと一歩でとんでもないカタストロフィが発生しかねない破綻の淵にまで追い込んでしまった。

自分自身の食管理を自分自身の手に取り戻せ

『食の終焉』の著者、ポール・ロバーツは現状を抜け出す究極的な解は、「自分自身の食管理を、自分自身の手に取り戻すことだ」と言う。当たり前の事のように聞こえるが、実はそうなのだ。

 われわれは何でも好きなものを好きなときに食べられるようなつもりでいるが、実は広告やメディアの食企画などによって、何を食べるのか、あるいは何を食べたいかまで、無意識のうちに食経済の言いなりになっていたのではないか。まずはその身近な問題から変えていこうというのが、著者の提案だ。

 自分の家の台所、私たちの住む地域やコミュニティなど、できるだけ手の届くところ(アームズレングス)から取っ掛かりを見つけることが、自分を変え、家族を変え、コミュニティを変え、そして究極的には世界を変えていくことの第一歩になるのだと思う。

『食の終焉』はその一歩を踏み出すためのきっかけを与えてくれるはずだ。なぜならば、かつてないほどまでに明確に食システムの現状を暴き出しているからだ。一度その構図を知ってしまったら、もう元には戻れない。 

 


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