――つまるところ、お金の電子化はアイデンティティの電子化とセットになっているってことですね。

 そうそう。冒頭に「インターネットやスマホが、いよいよ社会の最も実質的な領域に到達した」というのはそういうことなんです。で、デジタル空間とリアル空間におけるアイデンティティを一元化するということはどういうことかというと、いよいよデジタル空間が本格的に「国家」や、もしくは「EU」といった国家の集合体みたいなものが管轄する領域になっていくということであるわけで、だからこそデジタル空間における「個人主権」(Self-Sovereign)を謳ったGDPRは、そういう意味でも重大なんです。つまり、個人主権の原則をもってデジタル空間をガバナンスするということなので。ムックにも寄稿いただいた憲法学者の山本龍彦さんが、「GDPRは21世紀の人権宣言だ」とおっしゃるのは、まさにそのことを指しているんだと思います。

――GAFAへの対抗措置というだけにはとどまらないんですね。そういえば、この10月に、アップルのティム・クックも、アメリカでもGDPRに類する法律を、連邦政府レベルでつくるべきだ、と言っていたみたいですね。

 そうなんですよ。10月24日にブリュッセルで開催された「International Conference of Data Protection and Privacy Commissioners」というカンファレンスでEUのGDPRを讃えて、こう言ったとされてます。「テクノロジーの発展は、人びとの信頼に根ざしたものでなくてはならない」。

――個人情報保護に関してクックは、GAFAのなかでもとりわけ熱心な支持者だと言われてますね。

 そうなんです。とはいえ、だからといって、GDPR的なものが、即座に「デジタル空間が国家のルールによって縛られる」ことを意味しているわけではなくて、その法律自体が、むしろ「国家というもののあり方がデジタル空間の様式にしたがって変容を迫られている」ということの現れでもあるわけなので、双方の力学を、どの辺で、どう折り合いをつけるのか、ということが重要だと思うんです。

――ふむ。

 一言で「ネット空間のガバナンス」と言っても、これまで行政や企業が行ってきたガバナンスのやり方では通用しない。じゃあネットのルールでリアル空間を管理するのにも無理がある。よほど知恵を絞らないと落としどころは見えないと思うんですが、「銀行」はある意味、半分は民間企業ですが、半分は公益を担う公共インフラでもあるという側面もありますから、銀行は、いわゆる民間主導の経済のなかで起きている変化と、行政サイドで起きている変化の双方の影響をモロに受けつつ、それを取り持つ役割も担わざるを得ない、という意味で面白いんですね。ムックの後半になると、来たるべき時代の「公共インフラ」をどう構築し、どう運営するのかっていう話が結構出てくるんですが、銀行にまつわるあれこれを色々と学んでみると、どうしてもその辺に行き着いちゃうんですね。