あるメーカーの経営幹部ミーティングにおける出来事である。ゲストの来訪が予告されていた。最新鋭のAIを使った生産性向上のためのツールをプレゼンしてくれるという。
現れたゲストは、高級生地で仕立てた品の良いスーツに身を包み、派手なネクタイをきりりと締めている。そして、耳に心地良いトーンで、立て板に水のプレゼンが行われた。
「できる」プレゼンテーションが
一顧だにされなかった瞬間
いわく、「有名企業も使っているAIを利用したツールである。欧米有名大学での最新の研究をもとにしている。(グラフを示して)○○%も成果が上がった……」
私はこの立派なプレゼンを聞きながら、幹部たちがどのように受け止めたかということのほうに興味があった。
ミーティングの後、彼らに「どうでしたか」と感想を尋ねると、こぞって「あの人、ようしゃべらはるなー(よくしゃべりますね)」「あの人、偽物ちゃうか」という反応だった。
幹部たちはゲストが示した最新技術についていけずに、このように表現したのであろうか。いや、幹部の約半数はれっきとした工学博士である。最新技術の動向にも精通していることは日頃の会話からもうかがえる。
では、なぜゲストの話が受け入れられなかったのか。
原因は2つあるだろう。1つはプレゼンのテイストである。アニメーションと映像をふんだんに用いた、「魅せる」ことを意識した表現方法であった。この方法は、あまり幹部の皆さんのお気に召さないようであった。これについてはここでは触れない。
もう1つの原因、こちらがより本質的なのだが、それはプレゼンの中身の信頼性である。そもそも中身が真実でないと思われたのだ。
実は、組織ごとに何が真実なのか(正しいことなのか)、何が真実であると認識されるかの基準は異なる。