大震災の映像を見て一念発起
あの力はどこからきたのか
東日本大震災を機に変化した人の話は、以前、当連載でも取り上げた。長崎県佐世保市で引きこもっていた中村秀治さん(32歳)も、そんな1人だ。
中村さんは2011年3月の大震災後、被災地にボランティアとして出かけ、3ヵ月にわたる体験を『おーい、中村くん~ひきこもりのボランティア体験記』(生活ジャーナル)として自費出版。本の反響はジワジワと広がり、18年秋には、日本自費出版文化賞の特別賞にも選ばれた。
中村さんは小学6年のとき、学校に行けなくなった。不登校の理由は思い出せない。学校が楽しくなくて、しんどかったのかなと振り返る。
5年生のときから「学校を休みたい」と両親に訴えていたものの、父親はランドセルを放り出して無理やり学校に登校させた。
以来、生きていることにさえ罪悪感があった。ずっと家にいて、テレビを観るか、漫画を読んだ。子どもの頃から絵を描くのが好きで、風景や人物などを描いていた。
父親はその後、離婚して家を出て行った。母親からは「~するように」などと言われたことがない。母は当時から引きこもり関係の専門家に相談していたことを、後になって知った。
25歳のとき、東日本大震災の津波の映像を見て、衝撃を受けた。ボランティアに行きたいと思ったきっかけは、自分でもわからない。
「ボランティアに行きたいという気持ちを伝えたら、母は否定しなかった。『ボランティアよりも働きなさい』と言われることもなく、むしろ前向きに周りの人に相談してくれたのが良かったのかなと思います」(中村さん)
被災地のボランティアというと、瓦礫の撤去や溝の泥救いなどをするイメージがあった。「それならできそうだと思って動き出せた力は、どこから来たのだろう」と、中村さんは今でも首を傾げる。