ただし、このコミットメントの実現は、実際にはかなり難しいといわれている。
自分ではっきりと表明しても、相手は「そう言ってはいるが、うそでは?」「実際には実行しないのでは?」などと疑うのが普通だ。
コミットメントするには、それを相手に納得させる仕掛けが必要だとされている。これを「コミットメントデバイス」と呼ぶ。
国際政治の首脳外交の駆け引きでも、「自分は妥協しない」と信じさせるには、根拠が必要だ。そのコミットメントデバイスの最たるものは国民だともいわれる。そんな 妥協をしたら自国の国民が許さないと、相手国に知らしめることは、交渉を有利に運ぶ。
後ろにずるずる下がると後がない小国に対し、米国のような大国は、意外にもコミットメントデバイスの材料が少ないという弱点を持つことが指摘されている。
ただし、米トランプ政権の場合、交渉のバックグラウンドには、善しあしはともかく、「選挙公約は実行する」といった一貫性がある。
政策がいかに不合理なものであっても、「やるぞと言ったら、やりそうだ」というのが、交渉力を支えているわけだ。
なお、ナッシュ均衡が二つ生じ得るようなチキンゲームでは、コミットメントに加え、「先手を取る」戦術も力を発揮する。先に有利な戦略に手を付けてしまうのは確かに手っ取り早い。
同僚との飲み会
エスカレーターにも二つのナッシュ均衡
チキンゲームと同じようなすみ分けのゲームに、「コーディネーション(協調)ゲーム」がある。
お互い違うものを選ぶのが解となっているチキンゲームに対し、コーディネーションゲームはお互いが同じものを選ぶ。
二つは数学的にはほぼ同じ構造であり、広義にはコーディネーションゲームにチキンゲームが含まれると捉えていい。
〇エスカレーターで、急いでいる人のために右側を空ける(関東)か、左側を空ける(関西)か。
〇共同作業をするためにパソコンを買いたい。マッキントッシュにするかウィンドウズにするか。
〇会社の同僚と2人で飲みに行くか、自宅に帰ってゆっくりするか。
いずれも解であるナッシュ均衡は、次の表のように二つある。