SP1000M
正式発表されたばかりのSP1000M Goldも含めて、Astell&Kernの第4世代機を紹介していく。

気になるSP1000Mの実力は?
SP1000やほかの第4世代機と聴き比べた

 記事の前半では、Astell&Kern第4世代機の機能を中心に紹介してきた。しかし、最も気になるのは音質だろう。筆者は「A&ultima SP1000」のステンレスモデル(以下SP1000 SS)を常用しており、ヘッドホンの試聴や取材などで活用している。これと比較しながら、「SP1000M」やほかの第4世代Astell&Kernプレーヤーのサウンドの違いについて紹介していく。イヤホンについては「DITA Dream」をメインにしたが、複数機種で聴き比べている。

SP1000を聴く
SP1000 SS
Astell&Kern
SP1000MとDITA Dreamを組み合わせたところ。

 第4世代機の大手量販店での実売価格は、シーラス・ロジック製DAC搭載で最も安価な「A&norma SR15」が10万円弱、ESS Technology製DACの「A&futura SE100」が22万円弱、旭化成エレクトロニクス(AKM)製DACの「A&ultima SP1000M」が30万円弱、「A&ultima SP100」がステンレス(SS)/カッパー(CP)ともに38万円弱といったところだ。コラボモデルや限定モデルでは、販売価格が上下する。

※1 2.8MHzまではネイティブ再生。
※2 各機種ともダウンコンバートであれば、768kHz/32bitまで再生できる。
※3 FLAC形式、44.1kHz/16bitの場合。

 DACの違いによる音調の差はかなりあるのだが、同じメーカーであれば近い傾向になっている。第3世代以降はAKMのDACを搭載するケースが多いAstell&Kernだが、SE100はAstell&Kernとしては唯一のESS DAC搭載モデルで「ES9038PRO」を使用。SR15は第2世代のフラッグシップ機「AK240」同様、シーラス・ロジック製DACを使っており、世代は新しい「CS43198」となっている。

AK
SR15はかつてのフラッグシップ機「AK240」以来のシーラス・ロジック製DACを採用している。

 SP1000Mは、SP1000 SS/CP同様、AK4497EQをデュアル搭載しており、音調は大きく変わらない。というよりも、特にバランス駆動時であれば、シリーズのほかのモデルと比べた場合のような差はなく、わずかと言えるだろう。SP1000Mは小型化しているが、出力が高い関係で、厳密に音量を揃えるのは難しい。同一の音量位置では、SP1000 SSよりも音圧が高くなる分、より低域が前に出てくる印象がある。

 聴き比べれば差はもちろんあるのだが、S/N感や解像感といった質の部分でも目立った差はない。10万円に迫る価格差だが、クオリティ的には同格と言える。強いて違いを書くとすれば、中低域の出方だ。ベースラインやドラムなどがより軽く、前に出てくるし、男性ボーカルなどの中低域も厚く、ゆとりある雰囲気がある。この点を重視するリスナーなら、SP1000よりもドライブ力が高まったと感じるかもしれない。

Astell&Kern
上がSP1000M、下がSP1000 SS。ダイヤル部の見た目は変わらないが、機能的には音量調整のみで、押し込んでメニュー選択もできるSP1000とは異なる。
Astell&Kern
底面の5ピン端子などは省略。第3世代機のときとは異なり、一体化できる録音モジュールや外付けアンプといった周辺機器はないので、あまり重要ではないだろう。

 ただ、一般的な3.5mm端子を使用した際の音ではSP1000が優れているように思えた。安定感があって、音に雑味がないし、より正確な再生ができている印象だ。ここはSP1000Mとのクオリティ差を感じる部分だ。SP1000Mは最新機種だが、やはりハイエンド機はSP1000のほうなのだと実感した(少なくとも筆者にとっては)。

限定販売のSP1000M Goldも出て悩ましい状況に

 と、結論付けて、今後も取材用のリファレンス機は「SP1000 SS」で決定と思っていたのだが、最近発表された「SP1000M Gold」を聴いて心が揺らいできた。SP1000M Goldは、アルミ製だったSP1000Mの筐体を真鍮製に変え、表面を純度99.7%の金メッキコーティングした製品。内部ストレージを256GBに倍増し、かつ木製ケースなども付属する国内200台の限定モデルとなっている。発売は2019年1月18日。サイズについては同じだが、重量は約307gと100g以上増えており、SP1000SSよりは軽いが、持ち比べるとかなりズッシリくる。

Astell&Kern
限定200台で販売されるSP1000M Gold。

 Astell&Kernブランドは、仕様は同じだが、筐体素材を変えたバリエーションモデルを頻繁に出している。過去にAK240のゴールドバージョンなども海外向けにあったが、素材が真鍮だったかは調べきれなかった。SP1000Mは軽量さがウリなのに、敢えてステンレスより比重の高い(銅よりは軽いが)、真鍮を使うのはなぜかと思ったのだが、音を聴いて理由が分かった。

SP1000M Gold
SP1000M Gold
SP1000M Gold
SP1000M Gold
ボディ材をアルミ合金から純度99.7%の金メッキコーティングを施した真鍮(ブラス)に変更。付属の本革ケースはLa Perla Azura製からBadalassi Carlo製になった。

 分解能の高さがSP1000Mと比べて相当に上がっていて、場合によってはSP1000よりいいのではないかと思えてきたためだ。例えば、ハイレゾ音源の「adrenaline!!!」(TrySail 96kHz/24bit)を聴いたところ、音数が多い関係で埋もれがちな30秒付近のコーラスの音が明確に分離して聞こえるし、40秒付近から装飾的に入るチョッパー風のギターだったり、そのあとのリフなども前に出てくる。また、気持ち響きに特徴があるが、高域のなまりのなさも特徴的。「A or A!?」(petit milady、48kHz/24bit)の冒頭で入っている鉄琴風の音は、標準のSP1000Mよりも硬質で純度が高い鳴りだ(SP1000 SSよりも気持ち響きが太く、ほんのりと鐘寄りの音にも聴こえるが)。

 ヴィヴァルディの四季から《夏》(イ・ムジチ、192kHz/24bit)を聴いた際でも、弦とチェンバロの音がよく分離していた。定位感などもよく、SP1000Mでも音のフォーカスが少しぼやけていたと感じるほどクッキリ。スピーカー再生してみると、SP1000 SSのほうが音場が広く、定位も明確ではあるが、SP1000Mとの違いがかなりあるのにビックリした。

Astell&Kern
真鍮と金メッキした、ゴールドの質感がすごい。
Astell&Kern
革の質感も渋い感じだ。
Astell&Kern
SP1000Mでは省略されていた木箱も付いてくる。

 仕様や付属品の違いがあると言っても、SP1000M Goldは実売37万円弱で、SP1000Mより7万円高く、SP1000 SSとほぼ変わらない金額だが、サイズ面でのメリットに加え、音質面でも特徴を持つ機種と言えるだろう。

DACの違いで異なるキャラクターを選択できる

 第4世代機では、ESS製DACの「SE100」と言う機種もある。実売20万円程度で価格はSP1000Mより安価だ。スペック的には、上位機同様、オクタコアCPU採用で、PCMなら384kHz/32bit、DSDなら11.2MHzまでのネイティブ再生に対応。バランス駆動時の出力は4.1Vrms、S/N比は123dB、THD+Nは0.0006%となっており、アンプ性能はSP1000Mとほぼ同等である。クロックジッターは800フェムト秒(0.0000000000008秒)でSP1000Mの25ピコ秒(0.000000000025秒)より差が付いている。画面サイズはSP1000と同等の5型なのでプレーヤーとしては大きめだ。

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SP1000 SS(右)とSE100(左)。画面サイズが同じなので、大きさは同じぐらいだ。

 ファームアップデートで追加されたものを含めて、機能やUIはSP1000やSP1000Mと同じと考えていいだろう。音質についてもかなり高水準だが、DACチップの違いもあり、より音が細かく、繊細な音調となる。高域などのシャープな表現にはESSらしさがあり、SP1000/SP1000Mより、こちらを好む人もいるかもしれない。とはいえ、SP1000やSP1000Mには上位機らしい、確固たるクオリティの高さがあるし、安定した中低域の表現など、よりリスニングに合ったトーンバランスとなっている。

 SP1000と同じ画面サイズ、同じ対応フォーマットの機種が欲しいのであれば、だいぶ安価に入手できるという魅力もある。とはいえ、音調の差はあるので、まずは試聴して気に入った方を選ぶのがいいだろう。

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左からSR15、SP1000SS、SE100。SR15のコンパクトさが印象的。

 なお、SR15は実売で10万円を切るAstell&Kernとしては、入手しやすい機種だ。DACチップはシーラス・ロジックのCS43198をデュアル搭載。PCM:384kHz/32bitやDSD:2.8MHzの再生はできるものの、ネイティブではなくダウンコンバートしたり、一度PCMに変換したりしたうえでの再生となる。CPUはクアッドコアで、クロックジッターは70ピコ秒(0.00000000007秒)となり、バランス駆動時の出力は4.0Vrms、S/N比は122dB、THD+Nは0.0009%と、十分だが上位機よりは抑えた内容となっている。

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画面が傾いた独特のデザインだが、手に持つと思いのほかしっくりくる。
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角が落とされている点も特徴的だ。

 とはいえ、小型である点は魅力だろう。3.3型ディスプレー搭載で約154gと、SP1000Mよりさらに50gほど軽く、本体も一回り小さい。液晶が傾いた特徴あるデザインも慣れれば使いややすく、何より手に持つと非常に軽い。高価なプレーヤーだけにより多くの時間使いたいと考えるなら、ポケットなどに気軽に入れられるSR15のメリットが生きるだろう。

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AK240(右)との比較

 音質については、中低域に力感があって、音のメリハリ感も高い。ポップスやロックなどの聴かせ方がうまく、カジュアルに使うプレーヤーとしていいだろう。特にバランス駆動では音場感の広さや、押し出し感のあるベースなどを感じることができた。第2世代、第3世代のAstell&Kernサウンドを気に入っている人であれば、満足感が得られると思う。

バリエーションが豊富で悩みもあるが……

 SP1000のサウンドは、フラッグシップと言うこともあり、素晴らしいものだが、常時持ち運ぶとすると少し躊躇する面もある。携帯プレーヤーと考えた場合、ここが唯一の懸念点だった。しかし、SP1000Mはその問題も解決。しかもSP1000のサウンドはそのままで、一部進化を感じさせる面もある。

 もちろんそのサウンドは魅力的なのだが、年末から年始にかけて更新されたファームウェアによって、機能面でも死角がない存在となった。唯一の問題があるとすれば価格だが、その価値は十分にあると思うし、長く使いこなす楽しみもあると思う。

 前半の最初で、Astell&Kernの第4世代機は、シリーズの集大成的なものになったと書いた。ハイレゾプレーヤーの市場では、対応フォーマットの競争なども一段落ついた感じがある。常に進化を追っていきたい人だけでなく、長く使える機種を選びたいと考える人にとっても購入のいいタイミングだと思う。その中で、音質はもちろん、機能の面でも究極のプレーヤーを求めている人に、Astell&Kernの第4世代機は文句なく進められる。

 とにかく多機能であり、やりたいことがとことんできるが、使い勝手も洗練されており、初めても迷わず使える。特徴あるデザインも魅力だ。市場の最新トレンドを網羅し、死角のないモデルとなったAstell&Kern 第4世代機は注目の存在だ。。