UC Berkeleyの調査によれば、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の生涯罹患率は起業家で29%、一方の対照群で5%。躁状態とうつ状態を繰り返す双極性障害は起業家で11%、対照群で1%。薬物やアルコールなどへの依存は、起業家で12%、対照群で4%。いずれの精神疾患においても、起業家の罹患率は著しく高い(グラフ参照)。

 昨今国内外のメディアで目にすることもある「起業家の自殺」は、支援者にとっては最も触れたくないであろう出来事であろう。だが、起業家に多いとされる双極性障害は、精神疾患の中でも最も自殺のリスクが高い。もともとそうした気質を持った起業家が、高いストレスにさらされた結果発症し、薬物・アルコールへの依存や衝動性などと相まって自殺既遂に至ってしまうことは、必然的に想定しうる不幸なのだ。

【要因5】休む、転職という「逃げ道」がない

 精神的負荷が高まって「もうだめだ、苦しい」となってしまったとき、一般の従業員であれば「休む」「転職する」という選択肢もある。だが、起業家は安易に「休む」「逃げる」という選択をするには、仕事が人生と結びつき過ぎていることが多い。会社の経営が起業家のカリスマ性や能力に依存している場合にはなおさらである。

 だからこそ、限界まで苦しみ、逃げることができずに抱え込んでしまうことになる。経営者自身が不調や心の揺れを抑圧していることもあり、自覚したときにはもう手遅れ(病理の状態)になっているケースもある。

【要因6】「起業家は強くなくてはならぬ」という社会の目

 メンタルヘルスの問題に対する社会の目は、10年前と比べると格段に改善したとはいえ、依然として優しいとはいえない。それが「自己責任でリスクをとっている」と考えられがちな起業家のメンタルヘルスとなるとなおさらである。「メンタルが弱い起業家になんて投資しないから、起業家のメンタルヘルス問題には興味がない」と話すキャピタリストと出会ったこともある。

 こうした言説がまかり通る社会で、起業家にとって自身の不安感や揺らぎを堂々と表明できる場所はほとんどない。IPOやバイアウトなどの形でEXIT(事業売却)に成功し大金持ちになる起業家の世界は華々しいが、その光の世界にたどり着く起業家はごく一部だ。その道すがら、弱さをさらけ出すことができずに「姿を見かけなくなる」起業家は多い。「失敗者の烙印」を恐れて社会に戻れなくなる者もいる。