経営層やミドル層と分断される
社内のデータサイエンティスト

――そうした時代の流れのさなかに滋賀大学へ活躍の場を移し、「教育界の教授」という二つ目の視点を持つことになりました。新たに見えてきたものはありますか。

 教育界に移ったことでビジネス界との距離は離れてしまうかと思ったのですが、私がニュートラルな立場になったことでコンタクトを取りやすくなったため、実は逆にいろいろな企業とやり取りをしています。特に製造業の企業が多いのですが、その現場で起きているデータ分析をめぐる問題の典型例は大きく二つあります。

 一つは、社内でデータサイエンティストがどんどん“製造”されているのに、現場でワークしないというシチュエーションです。多くの企業で経営層が「社内にデータサイエンティストをつくらないといけない」と言っていて、理系の素地がある人間をセミナーや勉強会に参加させており、データサイエンティストと呼ばれる人は増えています。しかし、データ分析の方法論は身に付けたその人たちを、ビジネスの現場では活用できていないという状況です。

 もう一つは、マーケティングの世界で起きている事象です。ここでは文系の方も多いので、データ分析で数学や統計学、プログラミングなどの話が出てくると「勘弁してくれ」と拒絶反応を起こすといった事例が見受けられます。

 その根底にあるのは、企業の経営層やミドル層と社内のデータサイエンティストたちとの分断です。

――具体的にはどのような分断が見受けられるのでしょうか。

 企業の経営層やミドル層は社内で権限を持っていてビジネス感覚が鋭い人が集まっていますが、彼らにAIやデータ分析に対するリテラシーが足りず、「AIで何かをやれ」というスタンスでいる。一方、企業内データサイエンティストは自社のビジネスに対する理解や経験が足りない場合が多く、高度な分析をやってみたものの、企業の意思決定者にとっては役に立たない。こうした分断がよくある一例です。

 日本の製造業の場合、技術はどんどん細分化していきます。例えば、自動車メーカーの経営者がエンジンの製造技術の細かい部分まで知らなくてもいいですよね。モノづくりはそうやってある種の“分断”である細分化や分業化が可能です。しかし、データ分析の場合は、その分析結果に対して経営の意思決定が伴うので、経営者が分析内容について理解し、腹落ちしなくてはいけません。したがって、分断が大きな問題になります。