だが、それでも増え続ける待機児童に対応するため、子ども・子育て支援新制度の一環で、内閣府が打ち出したのが企業主導型保育事業だった。助成金をばらまくことで、とにかく量を増やす戦略を取ったわけだ。

お粗末な制度設計で
需要のない地域に保育施設が乱立

 ところが、ふたを開けてみればトラブルだらけだった。保育サービスのNPO法人、フローレンスの駒崎弘樹代表理事は「功罪ある制度だ」と分析する。

 「功」は自治体を通さずに保育園を造れるようにしたことだ。今後少子化で施設が余ることを懸念し、自治体は保育園を造りたがらなかったが、待機児童問題のネックを解消することはできた。

 一方で、「罪」もあった。「制度設計の段階で内閣府は現場保育事業者の話を聞くべきだった。いろんなインセンティブについて理解していなかった」(駒崎氏)。

 例えば、設置場所に関して待機児童が多い地域とは限定されていなかった。その上、助成の割合は全国一律。都市部より人件費や家賃が安い地方の方が設置のインセンティブが働いた結果、保育ニーズのない地域ばかりに保育施設が建つというおかしなことが起きた。

 中には、助成金の支給を受けたにもかかわらず、開園すらせず破産したという例もある。19年1月現在、不正受給などによる助成金取り消しは2件だが、罰則はないため悪用を防ぐ手だてがない。

 そうした事態から19年4月開園分は審査を厳格化。その結果、審査が長引いているようだ。

 審査トラブルの原因は、事務局である内閣府の外郭団体「児童育成協会」の人員不足だ。数十人の組織で外部委託もしつつ1000件を超える申請を処理すると同時に、施設の立ち入り調査も担当。実質的に業務がパンクしており、運営がずさんな業者への対応が後手に回っている。

 政府は昨年12月、「企業主導型保育事業の円滑な実施に向けた検討委員会」を設置し、事態の調査に乗り出している。

 とはいえ、待機児童数は徐々に減少しており(下図参照)、今度は少子化を背景として、園の分類を問わず、保育業界全体に危機感が高まっている。