「お年寄りのお世話をしていただくため、受け入れを決めました。でも初めての外国人だし、正直言って私たちもかなり不安なんですよ」

 こう切り出すのは、ある福祉施設に勤務する女性職員。同施設では協議の末、インドネシア人介護福祉士候補者の研修を受け入れることになった。

 インドネシアから、日本で働く看護師・介護福祉士の候補者の第1陣が8月7日に来日する。これは昨夏、日本とインドネシア両政府が看護・介護分野の労働者受け入れを含む経済連携協定(EPA)に署名したことに基づいている。これまでも民間団体などがフィリピン人などを受け入れた例はあるものの、この分野で日本政府が本格的に外国人を受け入れるのは、初めてのことだ。

 受け入れは、今年と来年の2年間。看護師400人、介護福祉士600人の予定だが、応募期間が短くインドネシア国内での広報が行き渡らなかったこともあり、初年度は計約300人に留まった。彼らは来日後6ヵ月間、日本語や日本人の風呂の使い方などの生活習慣を学び、年明けには受け入れを表明した病院や施設内で実務研修を積む。看護師は3年以内、介護福祉士は4年以内に日本の国家試験合格を目指し、試験をクリアすれば、正式に就労が認められる。

 とはいえ、正式就労へのハードルはかなり高い。看護師は滞日期間中、最大3回まで試験を受けられるが、介護福祉士は3年間の実務経験が条件で試験は1回だけ。合格した場合のみ、そのまま日本で無期限就労することが認められ、「不合格なら帰国」という流れだ。実際、初めて日本を訪れるインドネシア人にとって、働きながら3~4年で日本の国家試験にパスするという条件はかなり厳しいだろう。

「国家試験合格」は高い壁
介護現場の担い手になれるか?

 しかし、現場の関係者にとっては、「1人でも多く合格してもらいたい」というのがホンネだ。高齢化が進む一方の日本では、介護現場の人手不足が深刻になっている。

 なにしろ、介護労働安定センターによれば、2007年の介護職の離職率は前年比1.3ポイント悪化して21.6%にも上っている。特に、現場の主戦力となる若者の離職率が高い。今回の受け入れが成功すれば、人手不足解消の切り札となるかもしれないし、今後は他国からの受け入れに弾みがつく可能性もある。

 インドネシアにとっても、将来フィリピンのような人材輸出につながるメリットがある。インドネシアは介護士を香港や台湾などに100万人以上も派遣しており、それが外貨獲得のひとつの手段となっているからだ。日本で働くことができれば、彼らは平均的な看護師の月収200ルピア(約2万3000円)より1ケタ近く多い給料を手にできるのだ。