先日の日本経済新聞で、「政府税制調査会において働き方に左右されず個人単位で使える税制優遇付きの『貯蓄枠』創設を求める声が相次いだ」と報道されました。この背景には、今の個人型確定拠出年金(以下、iDeCo)は働き方の影響を受けるため使いづらいですが、「老後」は働き方によらず、全国民に等しくやってくるため、それへの備えとして全国民共通の貯蓄枠が必要なのではないか、との考え方があるようです。また、公的年金のより一層の支給額減額や支給開始年齢引き上げの可能性があるため、その分を補うためにも今のうちに国民の自助努力を促す制度を準備しておこう、といった考えもあると思います。
個人的には、これは非常に大きな変化の一歩だと思います。これまで国は『国民皆年金』を実現すべく様々な制度を導入してきました。その結果、確かに皆が年金を受給できるようにはなったのですが、一方で今後、年金額を自動調整する仕組みによって年金額が減ると予測されています。『国民皆年金』は実現していても、実質的にその金額では国民の老後を守ることができないため、自助努力を促すために、新たな税制優遇付きの「貯蓄枠」を導入する動きが出てきたのだと思います。
このような「貯蓄枠」に似た制度は、アメリカでは個人退職勘定(以下、IRA)と呼ばれており、広く普及しています。今回は今後、日本でも導入されるかもしれないIRAと日本の違いを見たうえで、日本が進むべき道を考えていきたいと思います。
IRAの現状
アメリカでは、2017年末時点で4390万世帯もの家計(全世帯の3分の1以上)がIRAを活用しており、とても普及しています(出所:米国投資信託協会、以下ICI)。年代ごとの加入率は、35歳未満は26%程度ですが、45~64歳の世帯は4割と高くなっています(多くが確定拠出年金(以下、DC)からの移管)。でも驚くべきは65歳以上の加入率ではないでしょうか。65歳以上でも35%の家計がIRAを引き続き活用しています。つまり、シニアの多くはIRAという非課税口座で運用をしながら、徐々に引き出しているものと思われます。
では、IRAユーザーはどのような運用をしているのでしょうか? IRA加入世帯のうち、45%が平均的なリスク水準である一方、平均よりも高いリスクをとっている人は31%、少ないリスクは24%と、全体的にはリスクをとってより高いリターンを追求している人が多いようです。中でも若い人は高いリスクをとって運用する傾向が見て取れます。実際、株式への配分比率は、勤労世代(27~59歳)の株式配分が70~75%程度となっている一方、70歳以上の株式比率は6割程度であり、「若いときによりリスクをとるべし」という人的資本の考え方と整合的な結果です。