両国がそれぞれ行った会談後の記者ブリーフの内容を見ても、これだけ米朝の違いが大きいにもかかわらず、合意書が準備され、署名が何時間か前まで予定されていたというのは、驚き以外の何物でもない。

 米朝間にあった本質的な違いは、北朝鮮が廃棄する核施設の範囲と、それに対する見返りの措置、なかんずく経済制裁解除の範囲だ。

 北朝鮮は寧辺(ヨンビョン)の核施設のうちプルトニウム製造とウラン濃縮の両方の施設を廃棄していく用意があるとし、見返りに2016年3月以降に国連安保理でとられた制裁措置の解除(特に石炭鉄鉱石輸出、石油精製品輸入が重要)を求めたとされる。

 一方、米国は、寧辺の核施設は広大な土地に300以上の施設があり、廃棄の用意がある核施設をまず正確に申告すべきとした。

 制裁解除についても、2016年以降の制裁措置は、実質的にはすべての制裁措置の解除に等しく、応じられないと、北朝鮮の要求を突っぱねたと推測される。

 要するに米朝交渉は、「非核化」の肝の部分、すなわち北朝鮮のプルトニウム型、濃縮ウラン型双方についての膨大な核関連施設のどの部分を対象に廃棄するのか、その見返りにどこまで経済制裁を解除するのかということについて、大まかな合意がないまま、首脳会談に議論が持ち越されたという風に見える。

 だが、首脳会談で、そうした核や軍事技術、貿易や金融などの専門的、具体的な問題を詰めることは到底、不可能なことは明らかだ。

 おそらく詳細は将来の実務者間の交渉に任せるとして、いくつかの具体的核施設の廃棄と経済制裁の緩和、例えば人道支援と南北協力の例外化、で合意を作るといった選択肢は、なくはなかったのだろう。

 しかしトランプ大統領はその選択をしなかった。

 やはり米国の国内情勢が色濃く影を落としたということか。

 特にハノイでの首脳会談開催時に、ワシントンでは、大統領選挙でのロシアとの関係などを調べる下院公聴会が開かれた。

 コーエン元大統領顧問弁護士の証言は、トランプ大統領への批判を一層強めるものであり、ハノイ首脳会談で不十分な合意を作るより今回は見送るという判断をしたのだろう。