2019年経済成長率目標を
「6~6.5%」と引き下げたのは?
前回コラム(『中国共産党は自らの沽券にかかわる「経済成長率」を何%に設定するか』)では、米中貿易戦争発生下における中国経済の現状や先行きに不透明感が投げかけられていること、そんな中、経済と米中外交という2大分野で失策が生じるような事態になれば、中国共産党の正統性そのものが揺らぎかねないこと、習近平総書記率いる党指導部はそういう危機感を持って経済政策や対米関係のマネジメントに奔走していることを指摘した。
その上で、3月5日に開幕した1年に1度の全国人民代表大会で李克強首相が公表する2019年度の経済成長率目標に関して、(1)過去2年を継承する「6.5%前後」であれば、中国政府として景気の下振れを抑えるための財政・金融政策ツールにかなりの自信を持っているということ、(2)「6.0%前後」という前年よりも0.5ポイントの下方に設定した場合、中国当局として経済の先行きを相当不安視しているということ、そして筆者自身の推測として(3)過去2年よりも下方に設定する、現実的には6.2~6.3%といったところではないかということを提起した。
李克強が所信表明演説に相当する「政府活動報告」で実際に口にしたのは「6~6.5%」であった。昨年の成長率が6.6%、第4四半期が6.4%であった経緯もあり、仮に今年も「6.5%前後」と設定し、例えば6.3%といった結果に終わった場合、「目標が達成されなかった」「設定した目標に対して結果が追いつかなかった」と市場や世論から受け取られ、中国共産党のガバナンス力に疑問が投げられる。
そういう状況を避けるために、目標を自ら引き下げたのだろう。上記のように、筆者自身は、党指導部は本年度の成長率を6.2~6.3%程度で推移させたいともくろんでいると見ている。「6~6.5%」と目標に幅を持たせたこと自体は目新しいことではない。2016年も「6.5~7%」と設定されている。と同時に、経済の先行きや政策の効果などに一定の不確実性や不安要素を見いだす党指導部の危機意識もそこから見て取れる。