消費者に意識調査をして「人気ラーメン店ランキング」ができたとする。ただし、このランキングはちょっと変わっている。調査対象となった消費者は誰も実際にラーメンを食べたことがないというのだ。わりと不思議な話である。このランキングの意味はどこにあるのだろう。おいしいラーメンを食べたいと思っている人にはあまり役に立たないはずだ。

いつもの顔ぶれ

 三菱商事、住友商事、三井物産、三菱東京UFJ銀行、伊藤忠商事、東京海上日動火災保険、丸紅、三井住友銀行、みずほフィナンシャルグループ、三菱UFJ信託銀行。「大学生が選んだ就職人気企業ランキング2012」(ダイヤモンド・ビッグアンドリード調べ)の「文系・男子の部」のベスト10を列挙すると、こういう会社が並ぶ。ちなみに「文系・女子」のベスト5はというと、東京海上日動火災保険、三菱東京UFJ銀行、JTBグループ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友銀行。さほど変わらない。これが「理系・男子」となると、東芝、日立製作所、三菱商事、ソニー、住友商事となる。

 この調査は、就職活動中の大学3年生と大学院1年生3万人を対象としている。そうした人々を対象に平均的な傾向をみるという大規模調査だけに、「ま、そうなるだろうな……」という結果である。なにぶんまだ働いたことがない人々の声なのだ。日本の不特定多数の人に「有名な会社を挙げてください」と尋ねて出てくる会社とあまり変わらない顔ぶれになるのも自然な話だ。

 このランキングに名前が出てくる会社がよくないというわけではない。みなそれぞれに立派な会社、日本を代表する大企業であることは間違いない。しかし、こうした人気企業ランキングにはどういう意味があるのだろうか。調査を継続していって、ある時点で振り返ってみると、それなりに面白いことが分かるかもしれない。ヒット曲のランキングのように、「30年前はこんな曲が流行ってたんですね!歌は世につれ、世は歌につれ……」という話だ。いずれにせよ、ごくニュートラルな社会調査としてとりあえず継続しておく、という性格の調査である。

 これから就職しようという人々にとっては、「大学生が選んだ就職人気企業ランキング」に情報的価値はほとんどないといってよい。ここに出てくるような企業は、ランキングを見るまでもなく、ほとんど全員が知っている。まだリアルな仕事の経験がないフツーの大学生であれば、ほっておいても自然と「そそられる」会社ばかりだ。

 ランキングそれ自体には罪はない。しかし、この種のランキングにはむしろミスリーディングな面がある。いつの時代もこれから社会に出ようという若者はナイーブなものだ。就職人気ランキングの上位にある企業ほど「よい就職先」だ、上位の企業に就職することが成功だ、と短絡的に考えがちだ。