「成功している起業家の共通点は、自らが所属するコミュニティや環境を選んでいることだ」。これは東京大学で学生や研究者のスタートアップ活動を支援する馬田隆明氏の持論だ。では、起業家が選ぶべき環境にはどういった要素が必要なのか。「P」で始まる4つのキーワードから読み解く。

馬田隆明氏
馬田隆明氏

成功する起業家は居場所を重視する

 私はこれまで、海外のアクセラレーター研究や自身のスタートアップ支援活動を通じて得た知見を、プレゼンテーション共有サービスの「Slideshare」や自らのブログ記事にまとめて公開してきました。その延長線上で、2017年には『逆説のスタートアップ思考』という書籍も出版しました。しかし、情報提供だけではスタートアップの皆さんの行動変容を十分に促せないと感じることも多く、長い間歯がゆさを感じていました。

 そんな課題を抱えたまま、成功していると言われる起業家たちの話を聞く中で、私はあることに気付きます。彼らに成功した理由を聞くと、ほぼ必ず「運がよかったから」「環境がよかったから」と答えるのです。

 もちろん、これは単なる謙遜なのかもしれません。しかし、彼ら・彼女らの行動をより細かく観察してみると、何らかのコミュニティに属しているなど、積極的に「居場所」を選ぶことで成功への階段を素早く上っていました。経験豊富な連続起業家になると、自分だけでなく周囲の人の成長も促すような環境を自らデザインしている方もいます。

環境づくりに大事な4つの「P」

 そこで私はこう考えを改めました。スタートアップの育成機関であるアクセラレーターは、実はそのプログラムの構成や教育内容がすごいのではない。そのアクセラレーターが作っている「環境」こそが起業家の能力を伸ばしているのではないか、と。

 例えばシリコンバレーの有名アクセラレーターであるY Combinatorなどでは、プログラムに参加する起業家たちだけでなく、卒業生も含めて互いに刺激し合い、自然と起業家的な行動が促されるような環境づくりを積極的に行っています。だからこそ、同時多発的に優れたスタートアップを輩出することができるのでしょう。

 私自身も、2016年から東京大学で学生のサイドプロジェクトや起業を支援する仕事に就き、「スタートアップの成長を加速する環境」を作る方法を調べ始めました。その知見を「東京大学 本郷テックガレージ」や「東京大学 FoundX」といった支援プログラムに織り込む中で、確かな手応えを感じ始めています。そしてこれらの立ち上げと運営で学んだ知見は、スタートアップの創造的な文化づくりに役立つだけではなく、あらゆるビジネスパーソンがよりクリエイティブに仕事をすることにも応用できるかもしれないと考え、『成功する起業家は「居場所」を選ぶ』という本を執筆しました。

 本書では、環境の要素を「場所」(Place)、「人」(People)、「実践」(Practice)、「仕組み」(Process)という4 つのPに分け、それぞれどうやればよりよい環境を構築できるのか? を理論を交えながら解説しています。この記事では起業家やスタートアップの方々がよりクリエイティブになるための環境づくりについて、いくつか事例を紹介しながら具体的に提案したいと思います。