中古住宅には「立地を選べる」「安く買える」「好きに造り変えられる」などメリットも多いが、新築に比べると「耐震性」「省エネ性」に劣るものが多い。そこをリスクと捉え、効果的なリスクコントロールを図る手法が、購入時の「耐震改修」と「省エネ改修」だ。
3・11震災が変えた
熟年夫婦の住まい方
「あの地震が夜、寝ているときに起きていたら、死んでいたかもしれない」と、東日本大震災当日を振り返るのは、東京都台東区に住むT・Kさん(65歳)。
浅草の隣町の田原町にあるマンションは築37年。地震発生後に帰宅してドアを開けたら、室内は足の踏み場もない散乱状態。長年、趣味で集めてきた骨董、茶道具、絵画から書籍まで、多くのものが壁面収納から飛び出し、ぶつかって壊れていた。廃棄処分した品は段ボール16箱分に及んだという。
さらに各室、重厚な無垢の木の家具を置いていたため、それらが転倒した結果、壁や床にいくつも穴が開いた。ぞっとしたのは、天井近くまである背の高い衣装ダンスが、倒れてベッドに覆いかぶさる形になっていたことだ。
「実に大変な揺れ方だったわけで、震度5強でこんなことになるなら、もう孫を連れて帰ってこられないと娘に言われたほど。ちゃんと安心して住めるリフォームを決意しました」とTさん。
専有部と共用部
それぞれの補強策
マンションの耐震リフォームには、二つのアプローチが必要になる。自宅(専有部)と建物の構造(共用部)、それぞれの耐震補強だ。
震災当時、大規模修繕で外壁を塗り直し、玄関ドアも総取り換えした直後だったTさんのマンション。壁面に亀裂が走ったのはショックだったが、そこは大規模修繕のメンテナンスの一環として、工事会社が無料で修復してくれた。
より本格的な耐震補強については、これから着手する予定。
「うちはご近所でも管理費等が高いマンションで、修繕積立金は1億円を超えています。さらに管理組合の理事長は建築家。被害状況を調べ、前向きに補強するための好条件がそろっています」(Tさん)
室内についても、この理事長のアドバイスを入れながら、リフォームしていった。
壁の穴を修復し、クロスを張り替えるだけでなく、構造体にがっちり留めつける形で梁を渡して、それに大型家具を固定していく。
以前から使っていた壁面収納には、モノが飛び出さないようロックする仕組みを検討中で、とりあえず軽いものを上に、重いものを下にと、全部入れ替えた。
寝室の押し入れは開き戸ではなく、震災時にもモノが飛び出さない引き戸に変え、スライド式収納部分は上下2カ所で壁に留めつける方式をとった。
昔は「引き戸なんて古臭い」と思っていたTさんだが、地震に強くて空間を有効活用できる形であることを、改めて評価したという。
今回のリフォームでは、さらに床暖房やトイレ&ユニットバスの交換、ビルトイン食器洗い機の導入など、これからの快適性も確保した。
気になるリフォーム費用は、タンス転倒によって穴が開いた2部屋のクロスとカーペットの交換、引き戸式収納で150万円。それにトイレとサウナ付きユニットバス、食器洗い機、ガス式床暖房などに500万円。
Tさん宅は、管理組合の足並みのよさもあり、専有部と共有部の補強によって確かな耐震性向上効果を上げられそうだ。
しかし現実には、これほどスピーディに耐震改修が進む例はまれだろう。