大切なのは、本を「たくさん読む」ことではない

 さらに、本に囲まれて育った中卒の人と、本がない環境で育った大卒の人はほぼ同じ学力だということもわかりました。調査によると、最終学歴が中学卒業程度であっても、たくさんの本に囲まれて育った人は、大人になってからの読み書き能力、数学、IT能力が、本がほぼない家庭で育った大卒の人と同程度(どちらも全体の平均程度)だということです。このことから、研究者たちは読み書きや数学の基礎知識において、子どもの頃に本に触れることは、教育的な利点が多いと述べています(『ニューズウィーク』日本版2018年10月18日記事)。

 この調査結果の面白いところは、自宅に本が多いことで鍛えられると予想される読み書き能力だけでなく、数学の能力も強化することがわかったことです。これは「子どものときに本を読めば大人になって読み書きが得意になる」という単純な話ではないということでしょう。

 また、自宅の本を読んでも読まなくても、効果は変わらなかったそうです。つまり「本をたくさん読めば学力が上がる」という単純な話ではなく、大切なのは「子どもたちが、親や他の人たちが本に囲まれている様子を目にすること」だと研究者たちは結論づけています。

 よく「子どもは、親の背中を見て育つ」といいますが、家に本がたくさんあること、それ自体が「親の背中」なのだと思います。子どもにとっての「普通」は、常に自分の家庭が基準になっています。親が普段から本を読んでいたり、勉強をしたりしている姿を目にして育った子であれば、「どこの家庭でも、大人とは勉強しているものなのだ」と思います。反対に、親がテレビばかり観ている家庭の子は、それが大人のスタンダードだと感じるでしょう。

 家に本がたくさんあれば、たとえ子どもがそれを読まなくても、子どもはそれが大人の姿なのだと思い、自ら勉強する子になります。

 そのためにも、親は本を揃えたり、自らが勉強する姿を見せたりするなど、まずは自分が手本となる意識を持つことも必要でしょう。

(脳科学者 茂木健一郎)

※本文は書籍『本当に頭のいい子を育てる 世界標準の勉強法』を一部抜粋して掲載しています。