「説得力」とは実際どのようなものか、そして、その能力を高めるためにはどのようなノウハウが必要なのか? 「説得力は高度なコミュニケーション技法」と語る齋藤孝・明治大学教授に、日常でも応用できるそのテクニックを学ぶ。

齋藤孝・明治大学文学部教授
齋藤孝・明治大学文学部教授

 まず言っておこう。

 説得力とは、論理力と似て非なるものである。

 だからディベート形式の討論トレーニングで、いくら論理力を鍛えても、説得力とは結び付かない。それどころか、むしろ邪魔になる。

説得力は論理能力の高さに非ず!

 私は論理力のあるほうだと自負しているが、この能力のために説得に失敗したことのほうが多い。

 「あなたの言っていることがいかに筋違いか、私がこれから証明しましょう」などとやり合って、うまくいったためしがないのである。議論で勝ったところで、なんの解決にもならない。特に夫婦間ではそうだ。

 これが米国人同士であれば違うのだろう。ディベートで侃々諤々やり合っても後腐れのない風土があるからだ。だが、ここは日本。

 完膚なきまでに言い負かされた後で、「オレの負けだ。お前の言うとおりだった。これからはなんでも協力しよう」という精神風土ではない。

 論理は現実を動かす力にはなりにくいのである。

 それに、ディベート形式のトレーニングばかり積むと、相手の発言の本質をとらえる努力をせずに、あら探しばかりするようになる。また、ディベートでは往々にして、立場を変えていかようにでも議論できることを求める。しかし、自分の価値基準を離れて論理構成をするという習慣を身につけるのは決して好ましくない。