東宝株式会社の運営するシネコンTOHOシネマズが、「一般」の映画鑑賞料金を6月1日より1800円から1900円に値上げします。他にもファーストデイ(毎月1日の映画の日)の料金を1100円から1200円、レディースデイとシニア料金も1100円から1200円へと値上げします。一方、大学生から幼児までの料金、レイトショー、障がい者割引の料金は据え置きとなりました。さらに、TOHOシネマズが値上げを3月に発表した後、5月になって大手他社も続々と6月からの映画鑑賞料金の値上げに踏み切っています。TOHOシネマズがこの値上げに踏み切れた背景を価格弾力性の観点から考えてみましょう。
値付けに欠かせない「価格弾力性」の視点
価格弾力性とは、価格の変動によってある製品の需要が変化する度合いを示す数値のことを指します。一般的に、数値が高い(=弾力的)ほど価格変化に鈍感で、低い(=非弾力的)ほど価格変化に敏感といえます。価格弾力性は以下の式で表すことができます。
価格弾力性 = -(需要の変化量 ÷ 価格の変化量)
例えば、ある学習塾の授業料をそれまでの月額3万円から3万6000円に値上げしたところ、需要が1割減ったとしたら、この学習塾の3万円近辺での価格弾力性は、
価格弾力性 = -{-0.1 ÷ (6000÷30000)} = 0.5
となります。つまりこの学習塾のサービスは3万円程度の価格近辺において非弾力的ということです。
一般に、教科書などで弾力的なものの代表として挙げられるのは、なくても困らないぜいたく品や他にいい代替材のあるものです。宝石や海外旅行などがその代表です。
それに対し、一般に非弾力的とされるのは、生活必需品や他にいい代替材がないものです。例えば病院は、多少値上がりしたからといって行かずに済ませることはなかなか難しいので非弾力的となりやすいものです。身近な食品や水道料金なども、値上げしたからといっていきなり減らすわけにはいきません。都市部における公共交通機関や、逆に公共交通機関の発達していない地方における中古車の価格なども非弾力的といえそうです。
上記の学習塾についていえば、本来は絶対に必要とはいえない商材のような気がしますが、それでも非弾力的になったのは、この塾がユニークな授業を提供していて他に代替するサービスがない、あるいは満足度が非常に高く、2割の価格アップは許容できる、またあるいは、先生との関係性も強くなっており、いまさら他の塾に変えにくい、つまりスイッチングコストが高いなどの理由が考えられます。