「親には何の責任もない」
改めて確認したい民法の原則

 それでは次に、引きこもりの子を持つ親に対する責任がクローズアップされていることについて眺め直してみよう。そもそも、成人した子に関して、親の責任はあるのか。

 長年にわたって関西の生活保護の現場で働いてきた元自治体職員・Iさんは、私の問いに対して、まず、親の責任に関する民法の規定を整理した。

 子の行為によって親が責任を問われるのは、子が「責任無能力者」である場合だ(民法712条および713条)。具体的には、子が未成年の場合と「精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にあった場合」である。責任無能力者が第三者に損害を与えた場合には、法で定められた監督者が賠償する原則となっている(同714条)。

「つまり、子が責任無能力者である場合にのみ親は損害賠償義務を負うわけですが、『引きこもり』であるだけなら、責任無能力者とは言えませんね」(Iさん)

 この規定は、「精神障害者は閉じ込めておかなくては」という考え方の源の1つでもあり、全面肯定はしにくいのだが、ともあれ引きこもりの子を持つ親に責任はない。そもそも、成人年齢をはるかに超えた子どもを、親が扶養する必要はあるのだろうか。

「成人した子と親の関係は、生活扶助義務関係です。『自身の社会的地位にふさわしい生活をした上で余裕があれば援助』という軽い義務です」(Iさん)

 未成熟の子に対する重い義務とは異なる。

 引きこもりの子と別居することは、親子関係の困難をこじらせないために有効な手段の1つだ。しかし、別居している子に仕送りを続けることは、老いていく親にとっては困難、あるいは不可能かもしれない。生活保護は利用できるのだろうか。