原因は意外なところにあった

丸亀製麺を復活させた、刀の意外な戦略<br />粟田貴也/森岡毅インタビュー森岡毅(もりおか・つよし)
戦略家・マーケター
高等数学を用いた独自の戦略理論、革新的なアイデアを生み出すノウハウ、マーケティング理論等、一連の暗黙知であったマーケティングノウハウを形式知化し「森岡メソッド」を開発。経営危機にあったUSJに導入し、わずか数年で劇的に経営再建した。1972年生まれ。神戸大学経営学部卒。1996年、P&G入社。日本ヴィダルサスーン、北米パンテーンのブランドマネージャー、ウエラジャパン副代表等を経て2010年にユー・エス・ジェイ入社。革新的なアイデアを次々投入し、窮地にあったUSJをV字回復させる。2012年より同社チーフ・マーケティング・オフィサー、執行役員、マーケティング本部長。2017年にUSJを退社し、マーケティング精鋭集団「刀」を設立。「マーケティングで日本を元気に」という大義の下、数々のプロジェクトを推進。USJ時代に断念した沖縄テーマパーク構想に再び着手し注目を集める。著書に、『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』(KADOKAWA)、『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門』(KADOKAWA)、『確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力』(共著、KADOKAWA)、『マーケティングとは「組織革命」である。 個人も会社も劇的に成長する森岡メソッド』(日経BP社)、『苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」』(ダイヤモンド社)

 凡百のコンサルなら、「売上が厳しいのだから早くセントラルキッチンを造って合理化し、利益を上げなければなりません」というアドバイスをするのだろう。しかし刀の立てた戦略は意外なものだった。

「丸亀製麺の本質的価値をブランドにすれば、まだまだトップラインを伸ばせます。客足が落ちていたのは、その本質が手薄なままフェアをやりすぎたからです。フェアはリピーターには効果がありますが、新規顧客を呼び込むのには向いていません。それよりも、丸亀製麺の魅力の原点、『手作りのうどんの美味しさ』を押し出すのです」

 新商品などを期間限定で押し出すフェアとは、要するに「トッピング」で目先を変える手法だ。すでに丸亀製麺の美味しさを知っているリピーターを呼び戻すことはできるが、「うどん」そのものを食べるかどうかで迷っている新規顧客には効かない。そのことはデータを精緻に分析すれば明らかだった。森岡氏によれば、実はプロモーション中毒で次第に新規トライアルを落としてしまう現象は、企業が成長したときに起こる「あるある」なのだという。

 そしてもう一つわかったことがある。丸亀製麺のこだわりである「手作り」は、思っていたほど顧客には伝わっていないということだった。

 昨年9月に丸亀製麺の精鋭と、刀のメンバーが合体したチームが結成され、新しい動きが始まった。調査分析から戦略立案、しかも年内にブランドの再設計まで完了し、コミュニケーション開発を牽引する刀の圧倒的なスピードと知見に粟田社長は驚いたという。

 そして今年1月末から放送された新CMは、「すべての店で、粉から作る」ことを強調し、「ここのうどんは、生きている」というキャッチコピーを添えた。トッピングには一切触れなかった。第2弾CMでは、さらにそれをブラッシュアップし、「うどんの美味しさ」を表現。その体験を「丸亀食感」と名付けた。

わずか4ヵ月で劇的回復!

 効果は如実に表れた。今年5月に、16ヵ月連続で前年割れを続けていた既存店客数がついにプラスへ回復。前年比95まで落ち込んでいた客数が、105まで回復したのだ。これは5月に行ったソフトバンクとの協業(スーパーフライデー)によって来場した集客数を全て除いた数字だから驚きだ。つまり、わずか4ヵ月で10ポイントも既存店の集客ベースを回復したことになる。実店舗で勝負する外食/小売業界では、これは業績に決定的なプラスインパクトを与える。6月の数字はまだ固まっていないが、より強い手ごたえがあるという。

「我々はマーケティングというものをそこまで真剣に考えたことがなかった。森岡さんと組んで、マーケティングの威力をまざまざと見せつけられました」と粟田社長は舌を巻く。

「丸亀製麺にはもう一つ魅力があります。店頭で自分の好みにメニューを組み立てるカスタマイズの喜びです。こういったところも今後はアピールしていきたい」

 丸亀製麺の「原点回帰」のように、成熟市場でもまだまだ起こせる奇跡はあると森岡CEOは言う。
 トリドールはその名の通り、焼き鳥屋からスタートし、丸亀製麺を中心に様々なブランドを展開している。海外にも多くの店舗がある。今後の可能性は無限大だ。

「私のマーケティングのメソッドは、移植可能です。大切なのは自社ブランドが消費者に選ばれる確率を解き明かし、その確率を上げるドライバーを見極めて経営資源を集中することです。我々が離れた後も好調であり続けるUSJのように、丸亀製麺さんに我々のメソッドを内製化していただきたい。世界で冠たる外食企業として飛び続ける未来を創れるように我々は知恵を絞らせていただく」(森岡CEO)

 トリドールは刀という稀代の軍師を得て、世界で羽ばたく戦略をつかんだ。未来を本当につかめるかもしれない。

参考記事

グローバル企業で通用しない日本人問題
森岡毅インタビュー[5]