「広く、浅く」の商社ビジネスは終わったPhoto by Kazutoshi Sumitomo

経営者インタビュー「チェンジリーダーの哲学」の2人目は三井物産の安永竜夫社長だ。2015年に同社史上最年少の54歳で社長に抜てきされ、連結従業員4万人超の財閥系コングロマリット企業を率いる。「ジャングルガイド」を自称する若き社長がもくろむのは、伝統的な総合商社のビジネスモデルの変革だ。(聞き手/ダイヤモンド編集部 重石岳史)

――三井物産は今後の成長の柱として「環境」と「健康」を掲げています。グローバルで起きている変化をどう捉え、三井物産としてどのような戦略を描こうとしているのでしょうか。

 まずはわれわれがなぜ、環境と健康にフォーカスしていくと決めたかをお話ししたい。

 世界では今、米中貿易摩擦やブレグジットの影響もあり、景気の不透明感が高まっています。その中でわれわれ総合商社がかつてのように広く浅く、満遍なくビジネスを行う時代は既に終わっていると思っていて、よりめりはりを付けて攻めなければならない。地政学的なリスクの高まりだけではなく、デジタル技術や流通の革命も起きている。

 その中でわれわれの強みはどこなのか。着実にその強みを生かせて、しかも今後確実に成長していくマーケットは何か。その変化を先取りし、手を打っていく必要がある。これを特定した結果が、環境と健康なわけです。

 環境に関してわれわれはLNG(液化天然ガス)やリニューアブル(再生可能エネルギー)、あるいはモビリティ分野で培ってきたネットワークの強みがある。

 健康に関しては2011年に(アジア最大手の民間病院グループの)IHHに出資参画しています。(マレーシア国策投資会社の)カザナと一緒にハンズオンでこの事業を育ててきた自負があるし、われわれの機能を発揮できることも分かりました。

 そこへ昨年、カザナから「株式を売りたい」という話が出てきた。相対で交渉し、われわれが筆頭株主になれるという千載一遇のチャンスを得た。今までカザナと共同でやろうとしてきたことを、われわれがむしろドライバーズシートに座ってやっていくんだと決めたわけです。

 アジアの中間層がこれからより豊かになり、かつ平均年齢が高くなっていく中で疾患の種類も変わってくる。健康意識の高まりもあり、より高度な医療を求める中間層が増えれば、マーケットは着実に伸びていく。そこでプラットフォームとしてのIHHを持つことができたわけです。

 ヘルスケア分野でわれわれは既に10年以上の経験を積んでおり、やはりこの分野の最大のプロフィットプール(利益が出る場所)は病院にあることが分かっています。

 株式の追加取得というチャンスを今回生かし切れたわけですが、勝負はもちろんこれから。現場には「もうアジアに移れ」と言っているんです。戦場はアジアであって、病院ビジネスを拡大する現場はマレーシア、シンガポールであり、そしてこれから伸ばすのはインドと中国。そこで勝負をしなければならず、東京でバックオフィス(事務・管理業務)をやっている場合ではない。

 まずは現場で病院事業のオーガニックグロース(自立的成長)を達成する。そこから周辺事業を拡大し、600万人の外来患者のデータを使って新しいビジネスを展開する。これをやるのには現場にいなきゃいかん。だから「アジアの三井物産」と最近自負しているんですけれど、われわれもアジアにどんどんシフトしていきます。

 もちろん三井物産は日本で生まれた会社ではあるし日本的な良さは残していくんですけれど、より現地化し、現地の人材と日本人がチームを組んでハイブリッドな経営をしていく、ヒューマンリソースを活用しながら現地でのビジネスを拡大していくことを企んでいるわけです。