「転用できる技術」は
会社の価値を押し上げる
大幅な売却価格の差には、もう一つの理由が隠されていました。
この会社には貸借対照表には表れない技術資産があったのです。
技術者100人のほとんどは、顧客のウェブ系システムを構築するシステムエンジニアで、大半が顧客先に派遣されています。
しかし、10人前後の技術者は、顧客から依頼されたシステムを請負形式で開発していて、年々請負形式での開発の比率が大きくなっていました。しかも、請負形式による開発プロジェクトの利益率は高い。ここにポイントがありました。
技術者は、半年から1年前後で次々とプロジェクトを渡り歩き、さまざまな技術を習得します。通常のシステム派遣会社では、プロジェクトとプロジェクトの間の空白の時間を作りたくないため、技術者は休む間もなく次のプロジェクトに移行します。
しかしこの会社では、プロジェクトとプロジェクトの間に、一定の充電期間を入れる仕組みを構築し、それぞれがプロジェクトで習得した要素技術のうち、汎用化できる技術やプログラムを整理し、社内に蓄積していました。
元々、派遣先でバラバラになりがちな技術者の帰属意識と連携を高めるため、自社の研究開発的な位置づけで導入された仕組みでした。
しかし、結果としてシステムに利用できる汎用性の高い技術がライブラリー化されたことで作業時間が短縮され、バグの発生も低減しました。それをもとに、利益率の高い請負形式の開発を伸ばしていくことにつながったのです。
技術的な裏づけがあり、成長の可能性があると判断できれば、株式価値の評価も大きく上方修正される可能性があるかもしれないのです。