一口にITシステムのクラウド化といっても、現状のソリューションは、ストレージとアプリケーション(サーバー)についてのもので、実はそれらを物理的につなげているネットワーク専用機器のクラウド化は、いまだ未開拓の領域といえる。ネットワーク仮想化というこの分野での基盤技術の開発に、世界的にも最先端で取り組んでいる日本のベンチャー企業がある。アマゾンやグーグル出身のエンジニアが集まる多国籍チーム、ミドクラを率いる同社共同創設者兼CEOの加藤隆哉氏に話しを聞いた。(聞き手/ジャーナリスト 大野和基)
――グーグルの本社に知人がいますが、彼は自分のコンピュータが盗まれても何の影響もない。アプリケーションもデータも何もそこには入っていないから、と言っていました。いまや、一般の人でもさほど変わらないサービスを受けられるようになっており、クラウドはずいぶんと身近になってきました。
財団法人日本取締役協会正会員・理事「エマージング・カンパニー委員会」副委員長、経済産業省「グローバルなソフトウェア産業競争力に関する研究会」諮問委員を歴任。株式会社ロイヤルゲート顧問、シフト株式会社顧問、モバドジャパン株式会社顧問、株式会社ブークス非常勤取締役を務めている。
今みなさんがよく使われているクラウドとは、例えばGmailのようなクラウド・アプリケーションですね。これらは、日本では2005年には一般的に使われるようになっています。
企業システムとして、クラウドが注目された最初は、2007年に日本郵政公社が米IT大手のセールスフォース・ドットコムのSaaS型営業管理アプリケーションを全面導入した際です。あれはエポック・メイキングでした。
自前にインフラを持たず、なおかつ自前にアプリケーションも持たず、あれほどの大きな会社が導入したことで、他の企業もクラウドの方向に動き始めました。ITの所有から利用への動きはずっと言われていましたが、このときに流れが大きく変わり、ITも電気やガスのように、インフラを所有しないでサービスを利用するものになりました。
もう一つエポック・メイキングだったのは、2010年末にアマゾン・ドットコムのAWS(Amazon Web Services)が日本に本格的に上陸したことです。AWSは、企業システムをクラウド化するためのインフラを提供するサービスです。いわば、計算する機能とデータを蓄積する機能が、10秒もあれば手に入る環境になりました。以前ならば、機器のベンダーから見積もりをとり、インフラを構築・設定するのに2ヵ月かかったものが、今は秒単位でできるようになったわけです。