厚労省が、派遣社員に対して勤務年数に応じた賃金を支払うよう派遣会社に義務づけることが、7月18日付の日経新聞で報じられた。例えば、同一業務で3年間の経験を積めば賃金を3割上げるなど、具体的な賃金水準を示す指針をまとめるという。
これは2020年度から始まる同一労働同一賃金制度に合わせて、正社員との賃金差を縮小するための措置とされている。しかし、その実態は日本の正社員の年功賃金を守るために、それに派遣社員の職種別賃金を無理に合わせようとするものだ。欧米の職種別労働市場を前提とした「同一労働同一賃金」とは正反対の方向であり、本来の労働市場改革に逆行するだけでなく、派遣社員自身の雇用機会を狭めるおそれもある。
急速に進行する労働者の高齢化の下で、過去のピラミッド型人口構造の時代に形成された年功賃金は、企業にとってコストが大きくなり過ぎて、とても維持できない。また、これは多くの先進国で禁じられている定年退職制という「年齢による差別」をもたらす主因でもあり、多様な能力をもつ高齢者の活用を妨げる大きな障害ともなっている。
その意味で、同一労働同一賃金の本来の目的は、正社員の年齢や勤続年数という画一的な基準ではなく、個人の職種ごとの仕事能力に応じた「(濱口桂一郎氏の名付けた)ジョブ型賃金」への移行を促す切り札であったはずだ。それにもかかわらず、「同一業務であっても勤続年数の長さに応じた賃金格差は、同一労働同一賃金に反しない」という抜け道がガイドラインで設けられた。このため、せっかくの安倍内閣の労働市場改革の大きな柱が骨抜きになってしまった(参照:『働き方改革が目指す「同一労働同一賃金」はなぜ実現しないのか』)。
今回の派遣社員の賃金規制は最低賃金のように地域別だけでなく、職種別にも定められるという。例えば、システムエンジニアの基準賃金は時給1427円で、1年目は1655円、3年目は1882円が目安という(同日の日経電子版より)。こうした個別の職種別賃金を行政が一方的に定めること自体が問題だが、しかもそれを明確な法律によってではなく、単なる通達で定めるという横暴なことがなぜ許されるのだろうか。小泉内閣時代にできたが、ほとんど活用されていない、恣意的な行政指導を禁じた行政手続法にも反するのではないか。