◇「ファザーレス」の苦悩

 それから1年後、横井さんは大阪支社に転勤となり、単身赴任となる。かつて、転勤であっても妻子との別居はするべきでないと主張していたにもかかわらず。

 事情を尋ねると、「長男が東京の私立小学校を受験するため」とのことだった。これも彼の持論とは異なっていた。様々な家庭環境の子どもが通う公立小学校が望ましいと言っていたはずだ。

 単身赴任が4年目を迎えた頃、43歳になった横井さんとの対面取材が実現した。かつてのはつらつとした印象はなく、年齢よりもかなり老けて見えた。

 横井さんは、「私がこんなおじさんになってしまって、驚かれたでしょう。いろいろとあったもので……」と切り出した。家族が暮らす自宅に一時帰宅した際、息子から「お父さんなんて、もういなくていい」と言われてしまったというのだ。家族のために仕事に励んできたのに。妻ともギクシャクした関係が続いているという。

 次に会ったとき、横井さんは東京本社に戻り、課長職に就いていた。しかし「家庭に居場所がない、んです。拠り所が欲しい、です……」という。妻は、仕事一辺倒で家庭を顧みようとしない夫への反発から、心身ともに横井さんを拒否するようになっていた。子どもたちとの会話もほとんどないようで、子育てを妻に任せきりにしていたことを悔やむ言葉も飛び出した。

 家庭だけではない。横井さんは、出世競争に負けたこともあり、会社にも居場所を見つけられていないのだという。

◇夫として、父として

 50歳になった横井さんは、再び大阪支社に転勤となり、単身赴任となった。前回と違うのは、妻との関係が改善に向かっていることだ。妻は月に1回程度、単身赴任先のマンションを訪れ、家事をしてくれるようになったという。

 横井さんは、妻に感謝し、夫、父としての意識を高めるように努めていると語った。その結果、家族との関係も改善に向かいつつあるという。