タイヤ業界で3年連続、世界シェアナンバーワンのブリヂストン。生産の8割を海外で行うなど日本でも有数のグローバル企業だ。だが、新興市場ではその地位も盤石ではない。新興メーカーの台頭で業界は様変わりし、中国では数百ものブランドが乱立する中、ブリヂストンは独自戦略を展開しようとしている。勝算はあるのか。
「歓迎光臨!(いらっしゃいませ、「観」「臨」は原文では簡体字)」。足を踏み入れると何人もの店員が笑顔で出迎える──ここは中国・武漢にあるブリヂストンのタイヤショップ「車之翼(「車」は実際には簡体字)」。明るい店内にはタイヤやホイールがずらりと並ぶ。タイヤ販売を中心に、空気圧チェックなどのアフターサービスや、オイル交換など簡単な自動車メンテナンスも手がける。
「商売は絶好調」と店長はホクホク顔だ。タイヤ販売は月平均で380本、サービスも含めた売り上げは60万元(約765万円)で、2005年のオープンから右肩上がり。客はアウディやBMWなど高級車ユーザーが多く、1本900~950元(約1万1500円)の低燃費タイヤのほか、1900元(約2万4200円)のハイグレードタイヤも売れ筋という。
モータリゼーションが著しい中国。乗用車タイヤの需要は今後5年間で45%伸びる予測だが、ブリヂストンはそれを上回る85%増の販売を計画する。
達成に向けまず注力するのが、こうした販売店網の拡大だ。各地域の有力ディーラーと手を組んで小売店の出店サポートをしたり、販売目標に応じた奨励金を出したりすることで、ブリヂストン商品を有利に扱ってもらう戦略だ。
街中のタイヤショップは増えているが、扱う商品もサービスの質も千差万別。そうしたショップと一線を画すため、売りっ放しでアフターサービスの概念がまだ根付いていない中国の販売店とは違う「ブリヂストンならではの高品質・高付加価値の商品とサービスをきちんと伝える販売店をどれだけ増やせるか」(大田康・中国董事長兼総経理)が重要になる。
そのためには労力を惜しまず、徹底した日本流サービスの導入と高度な社員教育を施す。
店長には上海市郊外にある研修センターで1週間、経営ノウハウから従業員マネジメントまでみっちりたたき込む。
販売員や技術作業員も呼び寄せ、実際の店舗を再現した場所で、接客の基本から細かな商品知識を必要とするロールプレーイングを何度も繰り返す。例えば、傷の付いたタイヤを用意し、発見と分析、客への説明と実際の修理ができるかをテストするのだ。