「イスラーム教=危険な宗教」
ではない!

出口:イスラーム教で、キリスト教の聖書に相当するものが、『クルアーン』です。原義は「詠唱すべきもの」という意味です。クルアーンには、預言者ムハンマドが神から託された言葉が書かれています。
ムハンマドは632年に亡くなり、『クルアーン』は650年に完成しています。まだムハンマドの仲間が大勢生きていて、ムハンマドが神から預かった言葉を思い起こしながらまとめられました。
その中心人物は、3代カリフ(イスラームの最高権力者)のウスマーンというムハンマドの友人です。

――IS(イスラーム過激派組織)などを筆頭にして、イスラーム教は20世紀末から21世紀の歴史に風雲を巻き起こしています。一般的に、「イスラーム教=危険な宗教」という認識が流布していますが……。

出口:イスラーム教の本質を理解するためには、その始源を学ぶことが大切です。
イスラーム教の開祖、ムハンマドは国際商人であり、軍人、政治家、大統領であり、そして普通の家庭を営んでいました。このような実務の世界に生きていた人がつくった宗教は、常識的に考えれば、より合理的な宗教になるはずです。
『クルアーン』を読み込むと、ムハンマドが剣に基づくことのない「イスラーム」(アラビア語で平和、調和の意味)という名の宗教と文化伝統を創始したことがよくわかります。

イスラーム教は正典の成立が早かったこともあって、クルアーンには異本(同一原典に由来しながら、伝承の過程で相違が生じた本)の類がありません。
したがって『クルアーン』は、ムハンマドの教えをほぼ正確に反映していると考えていいでしょう。

クルアーンについては岩波文庫に全訳がありますが(『コーラン』全3冊/井筒俊彦訳)、『クルアーン――語りかけるイスラーム』(小杉泰著、岩波書店)もお薦めです。

過去の賢人の思考の追体験をする

出口:哲学と宗教について深く知りたい人のために、『方法序説』『悲しき熱帯』『クルアーン』の3冊をご紹介しましたが、乱暴な言い方をすると、本の選定自体はどうでもよくて(笑)、大切なのは、古典を読んで著者の思考の追体験を行うことです。
「どうしてこの人は、こういうふうに考え、こういう結論に至ったのだろう」という思考のプロセスを追体験することが、思考力を高める一番の近道です。