アルコールや薬物などに依存して体を壊し、人生の終末期を医療刑務所で過ごす受刑者もいる。生活保護受給だけでは、彼らが自立するのは極めて難しい。今回、そんな受刑者の1人、たかしさん(仮名)に話を聞くことができた。(ジャーナリスト 横田由美子)
末期がんの受刑者
たかしさんとの対面
「かなり悪くなっていますよ。今週末を越えられるかどうか…。本人はもちろんわかっています。告知もしていますから。でも、受け入れられないんですよ」
たかしさん(62歳)のインタビューを終えて診察室を出た私に、優しそうな担当看護師はこう告げた。
私は、がくぜんとした。確かに黄疸が出ていて、顔色はみかんのようだった。膝から下の浮腫がひどくて、足は象のように腫れ上がっていた。でも、そこそこ元気そうに見えたのだ。
「病室からここまで車椅子で来たんですが、ひと苦労なんです。看護師さんに手伝ってもらったんだけど、すごく疲れる。トイレに行くのも大変です。転んで骨折でもしたら、また迷惑かけちゃうし」
とは話していたが、まさかそこまでの重病人だとは思わなかった。話し方も丁寧で明るかったし、なにより饒舌だった。私は、自分の浅はかさを呪った。録音データを聞き直してみれば、たかしさんが“末期患者”である兆候はあちこちにあった。
決定的だったのは、「大腸にあるがんは取ってしまっていますが、そのがんが肝臓に転移したんです」。インタビューの最初に、ちゃんと説明しているではないか。あまりに他人に対し思いやりのない自分自身にあきれた。たかしさんはこんなことも言っていた。
「起床時間の7時に起きて、夜は9時に寝て、その間3度食事が出るんですけど、おかゆです。3分の1か、よくて半分ぐらい食べられる」
「治療方法は、痛かったら、それに対する痛み止めを打ったり、熱が出たらそれに対処してもらう。私の方で痛い思いをするのは嫌だからと言って、それでお願いしている状態です」
受刑者といえども、まさに、打つ手がない患者に対する対応ではないか。