リーダーは「旗を立て」、従業員を鼓舞しろ
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「フォトショップ」や「イラストレーター」など、クリエイター御用達のソフトウエアで知られる米IT大手のアドビシステムズ。実はビジネスの世界では、2012年に継続課金制の「サブスクリプション」モデルに移行した“先駆者”としても注目が集まっている。サブスクビジネスへの移行の陣頭指揮を執ったシャンタヌ・ナラヤンCEO(最高経営責任者)に、成功の秘訣を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 大矢博之)

サブスクでビジネスの成長は健全になる

――サブスクリプションビジネスに注目が集まる中で、アドビは2012年にサブスクへの移行を決断しています。なぜ早期に決断できたのですか。

 アドビはクリエーティブの世界にインパクトを与えてきた企業です。当時は製品や企業の革新するペースが加速していた時期でした。新しい顧客を引き付けることが、われわれのプラットフォームを活気づけるために非常に重要だったのです。当時のわれわれの製品サイクルは12~18ヵ月。あらゆる動きが加速する中で、(売り切り型のビジネスは)顧客に多くの価値を提供するためには不十分でした。

 二つ目の理由は、新しい顧客を引き付けるために、われわれのソフトウエアを試す機会を与えることが、今後極めて重要になると考えたのです。三つ目の理由は、われわれの製品を使うコミュニティーとより密接に関わりたいと考えたからです。サブスクリプションモデルを採用した企業にとって、顧客を中心に考え、顧客やパートナーと密接に関わって製品の改善に参加してもらうことに、マイナス面はありません。私はこうしたメリットを公正に判断したと思います。ただ当時の困難はアドビという企業の規模でした。アドビは長い歴史のある企業で、財務モデルが大きく変化するからです。(サブスクに移行する)決断をしたことが、成功の理由だと考えます。

――実際に13~14年のサブスク移行直後は営業利益率が低下し、採算性は悪化しました。どう乗り越えたのですか。

 そのことは私も深く考えました。新たな顧客を引き付けるとともに、変化した財務モデルで収益を認識する能力が必要になります。実際には、サブスクリプションモデルを採用すると、ビジネスの成長はより健全になります。そして、どれだけの顧客がわれわれのプラットフォームに引き寄せられているのかという、対外的な発信の透明性は非常に高かったと思います。

 数年という期間で見ると、サブスクリプション収入は永久収入に似た特性を持っています。だから、(短期的に財務が悪化したという)指摘は正しいですが、より深掘りすると、はるかに健康的なビジネスに変わっていると言えたのです。

反対の声があっても 判断を信じて思い切れ
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――サブスク化への移行といった変革を実行できない企業は多くあります。リーダーとしてどんなことをしたのでしょうか。

 抜本的な変革を実行する際に、リーダーがすべきことはまず現状を認識することです。そして会社では“旗を立てて、道路を建設する”人にならなくてはいけません。私はアドビの従業員をやる気にさせて鼓舞し、旗を立てる方法を考えました。

――旗を立てる、とはどういうことでしょうか。

 なぜサブスクリプションビジネスが、われわれの革新をより速くするのかを説明しなければいけません。そして同時に、自分が築いている道を従業員に示す必要があります。私はいつもこのことを社内で言っているので、多くの従業員はどの“山”を登ればいいのかを知りたがります。ただ一方で、明日何をすればいいのかだけを知りたい従業員もまだ多くいるのです。だから、従業員をやる気にさせ、刺激するためのさまざまな方法を考えなければいけないのです。

 加えて、顧客の利益についても示す必要があります。幸い、顧客満足度はすぐに上がりました。どの製品を使えばいいのかが分かりやすくなり、また、製品をダウンロードしてすぐに使えることが可能になったからです。

 もちろん、顧客からも社内からも、反対の声は上がりましたよ。ですが私に言わせれば、野心的な取り組みを実行する際に、全ての点をつなぐように、全ての意見を反映しようとすることは、野心的な姿勢ではありません。判断を信じて思い切ることが必要です。

 そしてリーダーとして私がやるべき仕事は、オーバーコミュニケーション、オーバーコミュニケーション、そしてオーバーコミュニケーションです。なぜ製品の“売り切り”モデルと異なり、サブスクリプションモデルが顧客により良い結果をもたらすのか。なぜ従業員にとって良い結果になるのか。なぜ財務面で良い結果になるのかを伝え続ける必要があります。

 誰もがあなたの決断を支持し、エールを送るような状況ではなかったとしても、リーダーは不快に思ってはいけません。戦略を実行してくれる従業員はたくさんいます。そうした姿を見ることはエキサイティングです。