あおり運転カップルの女性と勝手に認定され、ネット上でボコボコにされた無実の女性が話題になっている。ひどい事件だと思うかもしれないが、実はネットが発達するはるか以前から、無実の人に罪を着せ、集団リンチするという事件は、我が国では繰り返し起きている。(ノンフィクションライター 窪田順生)

中世の魔女狩りもかくや
ネットリンチの恐ろしい「有罪認定」

取手警察署に入る宮崎文夫容疑者その手口の横暴さに日本中が激怒した「あおり運転カップル」。しかし、なんの関係もない女性を「クロ認定」してネット上でボコボコにするという「正義のリンチ」もまた、許される行為ではない Photo:JIJI

 またしても、「正義のリンチ」によって、なんの罪もない人がボコボコにされる、という理不尽な事件が起きてしまった。

 全国民を敵に回した、といっても過言ではない「あおり運転カップル」のうちの「ガラケー女」こと、喜本奈津子容疑者と間違えられてしまった女性経営者が、本名と顔写真を拡散されてSNSやネット上で凄まじい誹謗中傷を受けたのである。

 なぜこんな「デマ被害」が起きてしまったのかというと、暴行現場をガラケーで撮影していた喜本容疑者がかけていたサングラスや服装と、この女性がインスタグラムで披露していたファッションがよく似ていたこと。そして、宮崎文夫容疑者が、女性のインスタグラムをフォローをしていたからだ。

「え?たったそれだけ?」と驚く方も多いかもしれないが、ほとばしる正義感と拡散を呼びかける行動力で、社会に害をなす者をスカッと成敗する、いわゆる「ネット自警団」が行っている「有罪認定」とは、だいたいこんなレベルなのだ。

 例えば、東名高速の「あおり死亡事故」の犯人の実家としてネット上で吊るし上げられ、「息子を出せ」「今すぐそっちに行くぞ」なんて脅迫電話までかかってきた建設会社は、たまたま犯人の居住地に近くて、経営者が犯人と同姓というだけ。要するに、自分たちが「正義」だという絶対的な思い込みがあるので、なんとなくそれらしい状況証拠さえ揃えば絞首刑送りにしちまえ、という、中世の魔女狩りのような、かなりアバウトなジャッジなのである。

 なんて話を聞くと、背筋が冷たくなってくる企業のリスク担当者も多いかもしれない。実はこのようなデマを真に受けた「正義のリンチ」は、企業がターゲットとされるケースも多いからだ。