金相場は、5月末に急騰して1トロイオンス当たり1300ドル、6月下旬には1400ドルの節目を上回り、8月に入ると再び騰勢を強め、7日には1500ドルに達した。

 5月の急騰のきっかけは、米中貿易摩擦で中国がレアアースの輸出制限で報復する可能性が示唆されたことや、トランプ米大統領が不法移民問題に関する制裁としてメキシコ産品に関税を課すと表明したことを背景に世界経済の減速懸念や米国の利下げ観測が強まり、金の強材料になったことであった。

 6月には、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長が「貿易問題を注視」「成長持続のため適切に行動」と発言し、利下げがさらに織り込まれた。FOMC(米連邦公開市場委員会)での将来の利下げ示唆や、米国とイランとの軍事的緊張の高まりもあり、金は1400ドルを上回った。

 7月に入って、月初は米中首脳会談での貿易協議の再開合意を受けて売られる場面もあったが、10日にパウエル議長が議会証言で、早期利下げの可能性を示唆して以降は、1400ドル超で推移した。7月末のFOMCでは0.25%の利下げが決定された。パウエル議長が会見で「長期的な利下げサイクル」ではないとの見方を示したものの、下値は限定的だった。

 8月の金相場は再び急伸した。1日には、トランプ大統領が、制裁関税の対象外だった3000億ドル相当の中国産品に対して9月1日より10%の追加関税(対中制裁関税「第4弾」)を課すと表明し、貿易摩擦への懸念が一気に強まった。世界景気の先行き懸念から、長期金利が一段と低下し、株価が不安定な動きをしたことが、投資家の不安心理を高め、金は大幅に買われた。

 13日には、アルゼンチン情勢や香港の混乱も材料視され、1530ドル超の高値を付けた。同日には米政府が「第4弾」について、スマートフォンやパソコンへの適用を12月15日に延期すると表明し、投資家の安全資産志向が後退して一時1480ドル近くまで下げる場面もあり、変動幅が大きい。

 23日のジャクソンホールでのパウエル議長の講演は、ハト派的(金融緩和に前向き)と受け止められた。同日、中国政府が報復として750億ドル相当の米国産品への追加関税を発表したのに対し、米政府は第1~3弾の追加関税の税率を25%から30%に、第4弾の税率を10%から15%に引き上げると発表した。金は1550ドルを上回り6年ぶりの高値を付けた。

 先行きを見ても、米追加利下げ、米中貿易協議難航、イランを巡る地政学リスク、英国のEU(欧州連合)離脱問題などの金買い材料は継続しやすい。景気減速懸念で米国金利が低下すれば、金相場はさらに上昇する可能性がある。

(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主任研究員 芥田知至)