今年6月に東京海上ホールディングスのトップに就いた、小宮暁社長。デジタル技術の進展によって、自動車保険をはじめ事業の収益構造が今後大きく変わろうとする中で、業界最大手としてどのような成長ストーリーを描いていくのかを聞いた。(聞き手/ダイヤモンド編集部 中村正毅)
――フィンテックやデジタル化の進展で、収益構造が今後大きく変わる可能性がある中で、小宮社長が見据える損害保険会社の中長期的なあるべき姿とは何ですか。
先を見通す上で、まず前提となるのが保険の本質は何かということです。
事故や災害が起きたとき、また明日の可能性に向けてチャレンジしようという人たちに対して、そばでしっかりとサポートすること。そうしたことを通じて世の中になくてはならない会社であり続けたいというのは、今後も何ら変わりません。
その上でお客さまの近くに入っていって、ニーズの変化を踏まえつつ、商品やサービスを先回りしながら変革し続けていく。
東京海上にとって、創業からの140年はまさに変革の歴史でした。顧客から支持を得ながら今後も成長していくために、「聖域なき変革」を続けていくことが、保険会社として最も重要なことではないかと思っています。
――聖域なきという意味では、収益の大きな柱となる自動車保険についても、大きく見直す必要があるということでしょうか。
AI(人工知能)や自動運転の技術が今後さらに進んでいくと、事故の頻度は落ちていくことが予想されます。
日本でいえば人口が減り、シェアリングサービスがより普及することで、自動車の保有台数は長期的には減っていくでしょう。ただ、保有台数は今はまだ減っておらず、足元で逆に少し増えていたりもしますが。
車の買い替えは十数年に1回という頻度ですし、自動運転技術がインフラを含めてどのように普及していくかにもよりますが、長期的に自動車保険のマーケットは縮小していく可能性があります。
一方で、自動車の事故が完全になくなるわけではないですし、ドライブレコーダーなどを活用して事故を未然に防ぐ「予防領域」で、保険会社が果たさなければいけない役割も出てきています。
また海外に目を向ければ、新興国を中心に自動車の数自体が増え、われわれの役割が広がっていく局面にあるので、グループとしてまずは保険の普及をもっと頑張らなければいけませんね。
――長期的な自動車保険による収益の漸減を、どのような商品やサービスで補っていきますか。
日本企業の9割は中小企業という中で、まだ十分には保険を利用してもらっていない部分があります。例えば、インターネットにおけるサイバーリスクに対応した保険などがそうです。
日本は「課題先進国」といわれ、少子高齢化、人生100年時代といわれるような長寿化が進む中で、健康分野や高齢化する中小企業の経営者にどう向き合っていくか。課題先進国の中で、われわれが果たしていく役割をしっかりと定義し、果敢にトライしていきたいと考えています。