碓井 稔
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インクジェットプリンターのシェア首位企業であり、独自開発のプリンターヘッド技術を持つセイコーエプソン。碓井稔社長は、そんな同社の競争力の源泉である技術を惜しみなく外販することで、飽和感が出始めた市場での生き残りを図ろうとしている。 (聞き手/ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)

――個人用プリンターの市場や、オフィス用事務機器の市場はそろそろ頭打ちです。今後の成長をどこに求めるのでしょうか。

 例えば当社のシェアが高いオフィス用プロジェクターは、今サイネージ領域での利用を大きく伸ばしています。東京・お台場でチームラボと共同で運営しているデジタルアートミュージアムなどが代表例ですね。あの技術のベースはオフィスで使っているものと変わりません。同様に、インクジェット技術も多方面に横展開することができる。

――コア技術、いわば“秘中の秘”のプリンターヘッドを外販するのはなぜでしょうか。

 このプリント技術で新しい世界をつくりたいという人がたくさん出てきていて、じゃあ当社が要素技術のヘッドを供給するから一緒にやりましょうという考え方です。といっても、周辺の機械部分まで当社だけで手掛けることはできないので、そこは先方に任せます。いわばコア技術をプラットフォームにして、それを使ってこれまでになかった市場を顧客に開拓してもらう、オープンイノベーション的な形です。対象は印刷関連企業だけではありません。それこそ、何百社という単位になる可能性もある。

 インクジェット技術は印刷だけのものではない。当社がピエゾ方式(電圧により収縮するピエゾ素子を使ってインクを飛ばす方式)にフォーカスしているのは、これがインクジェットの中でも究極的な印刷技術だと信じているからです。なにしろ、これ以上シンプルで横展開ができる構造はない。

 正確に水滴のきれいな粒を飛ばすのが基本原理で、紙以外にもさまざまなものに印刷できるし、インクの代わりに多様な液体を使える。つまり、プリンターとして紙に印刷を行う以外にも、ありとあらゆる用途に使えるということです。

 例えば、アパレルで布を染める代わりにプリントすることもできます。また、先日提携した東京大学発スタートアップのエレファンテックは、従来はエッチング(素材表面の必要部分にのみ防錆処理を施し、腐食剤によって不要部分を溶解侵食することで目的形状のものを得る技術)が必要だったフレキシブルプリント基板を、インクジェット印刷を使って作る企業です。

 他にも、中国で商業施設内に設置した端末から、WeChatを使って広告付きの写真をプリントアウトする、フォトキオスク事業を展開するKFBという企業とも提携しました。いわば、必要なとき、ほしいときに少量でも何かを作る、ということを実現するための究極的な技術なのです。しかも、印刷の版をいちいち作ることも不要な廃棄物を生むこともなく、効率的に、環境負荷をかけずにモノができる。