米国の経済界が株主第一主義を見直すのを機に、日本企業も米国流に変質させてきた経営を日本的なものへと巻き戻すのではないかと期待している。そこで今回は、日本的経営の根幹である終身雇用が日本では合理的である理由を示したい。(久留米大学商学部教授 塚崎公義)
終身雇用制は労使にとって
ウィンウィンの制度
日本人は、不安を感じる遺伝子が多いらしい。災害の多い国で生き残るには、不安を感じて身を守ろうという意識を持つことが大切だったからかもしれない。
まして、「危険を顧みず一攫千金を目指して新大陸に渡って来た人々」の子孫とリスクに対する感覚が違うのは当然である。
したがって、日本人は「生涯所得の期待値は低くても構わないから、雇用の安定が欲しい」と考えるわけだ。そしてそれは、企業にとっても好都合である。終身雇用を保証すれば、生涯所得を抑えてもいいのだから。
筆者は元銀行員であるが、銀行から留学すると、帰国後に外資系企業からヘッドハンティングの誘いがくることも多い。しかし、筆者の知る限り、応じた例は多くない。
高額の年収を提示されても、クビになるリスクがあると心配で転職に踏み切れないからだろう。あるいは、徹底した成果主義の下でギスギスした雰囲気に身を置くよりも、年功序列の職場で和気あいあいと働きたいという事情もあるのだろう。